「おい、イシェ！今日はいい感じの空気が流れてるぞ！」ラーンが目を輝かせ、ビレーの街を背に広がる野原を見渡した。朝露に濡れた草の葉は朝日を浴びてきらめき、遠くにはヴォルダンとの国境を越えた山脈が薄っすらと見えた。
「また大穴が見つかるって言うのか？ ラーン」イシェは眉間に皺を寄せながら、背負った荷物整理を続ける。「遺跡探しの成果なんて、いつもお前の口だけなんだよ」
「違うんだぞ！今回は絶対違う！ほら、あの野原の向こうに見える丘だって、何か感じるんだよ！」ラーンはイシェの言葉を無視し、野原に続く小道を駆け出した。彼の後ろからテルヘルが静かに歩を進め、鋭い視線で周囲を警戒していた。
「あの丘は以前から調査済みだぞ。特に何もない」イシェはため息をつきながらラーンの後を追った。だが、何かが彼女の心をざわつかせる。野原に広がる静けさの中に、かすかな異変を感じ取ることができたからだ。
野原を抜けると、丘の上に小さな祠が建っていた。朽ち果てた石畳の階段を上り、祠の中へと足を踏み入れると、そこにあったのは一枚の古びた地図だった。地図には、ビレー周辺の遺跡だけでなく、ヴォルダンにまで続く広大な地下迷宮の構造が記されていた。
ラーンの目は輝き、イシェは息を呑んだ。テルヘルは沈黙を保ち、地図に刻まれた複雑な経路をじっと見つめていた。野原の向こう側、見慣れた風景の中に隠された秘密。それは、彼らを新たな冒険へと導く鍵となるのかもしれない。