「よし、今回はあの崩れかけた塔だな！」ラーンの声がビレーの朝の薄暗がりを掻き消すように響いた。イシェはため息をつきながら、食卓で残ったパンを口にした。「また危険な場所かい？ ラーン、あの塔は地元の人間ですら近寄らないと言っているじゃないか」
「そんなこと言ってるのは噂話だろ！きっと大穴が眠ってるんだ、イシェ。お前も夢見てるだろ？」ラーンの瞳にはいつもの自信と期待に満ちた光が宿っていた。イシェは彼の熱意に負けそうになるのを自覚しつつ、冷静さを保とうとした。「でも、あの塔はヴォルダンの兵士たちも避けて通ってるらしいぞ？何か理由があるはずだ」
その時、テルヘルがテーブルに重厚な地図を広げた。「いい話だ。あの塔にはヴォルダンが最も恐れているもの、彼の秘密が眠っているという噂だ」彼女は鋭い視線をラーンとイシェに向けた。「そして、その秘密を手に入れるためには、あなたの力が必要なんだ」
ラーンの顔は興奮で真っ赤になった。「そうか！ヴォルダンに復讐できるチャンスなのか！」イシェは不安を感じながらも、テルヘルの言葉に引き込まれた。ヴォルダンの秘密とは？それは一体何なのか？そして、その秘密が彼らの人生をどう変えるのか？イシェは、自分自身も知らない恐怖と期待を抱きながら、ラーンと共に塔へと向かう決意をした。
崩れかけた石畳の上を進むにつれて、空気が重く、不気味な静けさだけが支配していた。イシェは背筋に冷たいものが走った。ラーンの無邪気な冒険心とは異なり、彼女は危険を感じていた。
塔の入り口で、テルヘルが手を上げると、イシェとラーンも同時に剣を構えた。扉には奇妙な紋章が刻まれており、その周りには何かの文字がかすかに残っていた。「ヴォルダン語だ」テルヘルが呟いた。「これは警告だ。この塔に入れば、命を落とすことになるだろう」
ラーンの顔色が変わった。しかし、彼はすぐにいつもの笑顔を取り戻し、「そんなもん怖くないよ！さあ、イシェ、行くぞ！」とイシェの手を引こうとした。イシェはラーンを止める言葉を探していたが、その瞬間、塔の奥から不気味な音が聞こえてきた。
それは、まるで人間の悲鳴のようであり、獣の咆哮のようでもあった。イシェの心臓が激しく鼓動し始めた。重要な何かが起こる予感がした。そして、その予感は、すぐに現実のものとなった。