ビレーの朝の霧が晴れる頃、ラーンはイシェにいつものように声をかけた。「今日はあの遺跡、行くぞ!」イシェはため息をつきながら、「またか? ラーン。あの遺跡は危険だって何度も言ったでしょう。それに、テルヘルさんの依頼はまだ終わってないでしょ。」
「大丈夫だ、イシェ! 今回は大穴が見つかる気がするんだ。ほら、あの日、あの場所を掘り当てた時のことを覚えてる? あれがヒントになるって!」ラーンの目は輝き、イシェは彼の熱意に押されそうになった。「まあ、わかったわ。でも、今回は本当に慎重にね。」
テルヘルは遺跡探索の経験豊富な女性で、その知識と冷静さはラーンとイシェには欠けていた部分だった。彼女はヴォルダンへの復讐心から遺跡の調査を続けており、ラーンたちの力を必要としていた。だが、その冷酷な表情からは、彼らを使うつもり以上の何かを感じ取ることができないわけではなかった。
ビレーから遺跡までは、険しい山道が続く。三人は互いに言葉少なに歩を進めた。イシェはラーンの無計画さに呆れながらも、彼の情熱に心を揺さぶられることもあった。テルヘルは常に周囲を警戒し、鋭い視線で道を進んでいた。
遺跡の入り口は崩れた石柱が積み重なったような場所で、かつて栄えた文明の名残を感じさせた。ラーンは興奮気味に石柱に触れ、「さあ、イシェ! 大穴が見つかるぞ!」と叫んだ。イシェは深く息を吸い、恐怖を抑えながら遺跡へと足を踏み入れた。
遺跡内部は薄暗く、湿った空気が漂っていた。壁には謎の文字が刻まれ、床には石畳が敷き詰められていた。ラーンは興奮しながら石畳を蹴飛ばし、イシェは慎重に足取りを確かめながら進んだ。テルヘルは静かに周囲を探索し、何かを探しているかのように目を細めていた。
「ここだ!」ラーンの声が響いた。彼は石壁に何かを見つけたようだった。イシェとテルヘルも駆け寄り、彼の指さす場所を見た。そこには、まるで壁の一部に埋め込まれたように、小さな金色の箱があった。
「これは…!」イシェは声を失った。それは、遺跡の奥深くに眠るという伝説の宝物のほんの一部だったのだ。ラーンの目は輝き、「大穴だ! やったぞ、イシェ!」と叫んだ。イシェは喜びと恐怖が入り混じった複雑な表情を見せた。
だが、その時、背後から冷たい声が響いた。「待ってください。」テルヘルは鋭い視線で三人に告げた。「これは私のものだ。」ラーンの興奮は冷め、イシェは不安げにテルヘルを見た。遺跡の奥深くに眠る宝物は、彼らの運命を大きく変えるものになるのだろうか?
そして、その背後には、ヴォルダンとの復讐という暗い影が、重くのしかかっていた。