ラーンが石を蹴飛ばすと、小石が埃を巻き上げながら転がり、ビレーの街並みをぼんやりと歪ませた。イシェは眉をひそめて彼を見つめた。「また遺跡のことか?」
「ああ、今日はきっと何か見つかる気がするんだ」ラーンの目は輝いていた。「あの遺跡の奥深くに眠っている大穴。きっとそこで俺たちの運命が変わる!」
イシェはため息をついた。「いつも同じことばかり言ってるわ」と呟きながら、視線を少しそらした。ビレーの街並みは、かつての戦火の爪痕を今も残していた。ヴォルダンとの長い国境線に沿って、重なり合うように築かれた城壁が、静かに空を見上げていた。
「それに、テルヘルさんからの依頼だしな」ラーンは少しだけ自信なさげになった。「あの人の言うことは聞かないと…」
イシェは深く頷いた。テルヘルの冷たい目は、まるで氷の刃のように鋭く、彼女を常に緊張状態にさせていた。だが、テルヘルが持ち合わせていた知識と経験は、彼らには必要不可欠だった。
「よし、準備はいいか?」ラーンの顔に再び自信が戻ってきた。「今日は必ず大穴を見つけるぞ!」
イシェは小さく頷き、ラーンと共に遺跡へと向かった。ビレーの街並みを背に、二人は遺跡へと続く道を進むにつれて、重なり合う影と光の中で、二人の運命がゆっくりと交差していくように見えた。