「よし、今日はあの崩れかけた塔だ。噂によると、地下深くにはヴォルダンが恐れをなしたという古代の聖遺物が眠っているらしいぞ」ラーンの目には、いつも通りの興奮が宿っていた。
イシェは眉間にしわを寄せた。「また噂話に踊らされるのか?あの塔は崩落寸前だぞ。危険すぎる」
「大丈夫、大丈夫!俺が先頭に立って道を開くから。それに、もし聖遺物が本当にあったら、大金持ちになれるぞ!」ラーンはイシェの言葉など耳に入れない。
テルヘルは静かに彼らを二人を見つめていた。「この遺跡には、ヴォルダンが恐れた何かがあるというのは本当です。しかし、聖遺物だと断定するのは早計です。もしかしたら、それ以上に危険な物かもしれません」彼女の目は鋭く光っていた。
「危険だって?面白そうじゃないか!」ラーンの言葉にイシェはため息をついた。
崩れかけた塔の入り口にたどり着くと、ラーンは真っ先に中へと駆け込んでいった。イシェが後を追いかけるように入った時、テルヘルは少しだけ立ち止まった。彼女は石畳の上で何かを見つけ、それを慎重に拾い上げた。それは小さな瓶に入った、透明な液体のようだった。瓶には複雑な模様が刻まれており、かすかに甘い香りが漂っていた。
「これは…?」テルヘルは瓶を握りしめながら、塔の中へと足を踏み入れた。
塔の内部は暗く、埃っぽかった。ラーンとイシェはすでに奥深くまで進んでおり、懐中電灯の光が壁に影を落としていた。
「おい、イシェ!何か見つけたぞ!」ラーンの声が響き渡った。彼は崩れた柱の下に何かを見つけているようだった。
イシェが駆け寄ると、そこには古い石碑が半分埋もれていた。石碑には、複雑な文字が刻まれており、まるで警告のように見えた。「これは…古代語だ…」イシェは眉をひそめた。
その時、背後から何者かが近づいてきたことに気づいた。ラーンとイシェは振り返ると、そこにはテルヘルが立っていた。彼女の表情は真剣で、瓶を握りしめた手が震えていた。「これは…ヴォルダンが恐れたものだ…」彼女は静かに言った。「そして、それは今、目覚めようとしている」
瓶から甘い香りが漂い始め、空気が重くなった。ラーンの表情が歪み始め、イシェは恐怖で言葉を失った。テルヘルは瓶を高く掲げ、その液体をゆっくりと注ぎ始めた。
「これが…ヴォルダンへの復讐だ…」彼女の目は燃えるように輝いていた。