「おい、イシェ、地図確認したか?あの岩の影の部分、確か奥に道があったはずだ」
ラーンの豪快な声は、ビレーの朝の喧騒を吹き飛ばす勢いだった。イシェは眉間にしわを寄せながら、小さな巻物を広げた。「確認済みよ。ただ、あの道は崩落している可能性が高いわ。無理な探索は避けましょう」
「そんなこと言ってたら財宝なんて見つけられるわけないだろう!ほら、テルヘルさん、どう思う?」
ラーンは振り返り、テルヘルの方を向いた。彼女はいつものように無表情で、鋭い視線で地図を見つめていた。彼女の後ろには、黒い装束の男たちが2人影のように控えていた。
「危険を冒す価値があるかどうかは、現場を確認してから判断する」
テルヘルの声は冷たかった。その言葉にラーンは少しだけ萎えた様子を見せたが、すぐにいつもの笑顔を取り戻した。イシェはため息をつきながら、地図をしまった。
「よし、わかった。じゃあ行こう」
ラーンは先陣を切って遺跡へと向かった。イシェは仕方なく後を追いかけ、テルヘルとその配下たちも静かに後ろからついてきた。崩れかけた石畳の道を進むにつれて、空気が重くなっていった。日が差す場所でも寒さが骨まで染み渡り、どこからともなく聞こえる風の音だけが不気味に響いていた。
「ここは……何か違うわ」
イシェが呟いた。ラーンの足取りが急に止まり、テルヘルも警戒を強めた。配下たちは剣を構え、周囲を伺い始めた。静寂の中で、かすかな音が聞こえてきた。金属が擦れる音だ。
「あれは……」
イシェの視線が、遺跡の奥深くにある崩れかけた壁に向けられた。そこからは、薄暗い光が漏れていた。
「罠か」
テルヘルが呟くと、ラーンは興奮気味に言った。
「もしかしたら、大穴の入り口かもしれないぞ!行ってみよう!」
イシェはラーンの背中に手を伸ばそうとしたが、遅かった。ラーンはすでに崩れた壁に向かって走り出していた。テルヘルとその配下たちは、わずかな躊躇の後、彼を追いかけるように遺跡の中へと消えていった。イシェだけが一人、立ち尽くしたままだった。
「待て!ラーン!」