ビレーの朝はいつも薄暗い霧に包まれ、太陽が顔を出す頃にはすでにラーンとイシェは遺跡の出入り口に立っていた。今日はテルヘルが指定した場所だった。深い森の中に隠れた小さな祠で、壁には複雑な紋様があしらわれていた。
「ここか。何か感じるものがある」テルヘルは目を細めて壁の紋様を眺めていた。「ここはヴォルダンと関係ある遺跡かもしれない」
イシェは眉間に皺を寄せた。「ヴォルダン?またそんな危険な話?」
「危険を避けるなら家にいろ。だが、お前たちには必要だ」テルヘルは冷たい視線でイシェを見据えた。「あの遺産を得るために、我々はリスクを取らなければならない」
ラーンはいつものように無邪気に笑った。「遺産か!いいぞ、やろうぜ!」
テルヘルが用意した地図を頼りに祠の奥深くへと進む。狭い通路には古びた石碑が立ち並び、壁には剥げかけた絵画が残されていた。時が止まったかのような静寂に、ラーンの足音だけが響く。
「ここだな」テルヘルが手を伸ばし、壁の一部分に触れた。すると壁の一部が沈み込み、奥へと続く階段が現れた。
「なんだこれは…」イシェは驚いて声をあげた。「こんな仕掛けがあったのか?」
階段を下りると、そこは広々とした地下空間だった。中央には巨大な石棺が置かれ、その上には輝く宝石が埋め込まれていた。
「これが遺産か…」ラーンが目を丸くして呟いた。
テルヘルは石棺に近づき、ゆっくりと蓋を開けた。そこには…何もなかった。空っぽの石棺だった。
「何だこれは…」イシェは肩を落とした。「結局何も無かったのか?」
「違う」テルヘルは冷静に言った。「遺産はここに存在している。ただ、形が見えないだけだ」
ラーンの顔色が変わった。「どういう意味だ?」
テルヘルは石棺の底に刻まれた複雑な紋様を指さした。「この紋様、そしてこの遺跡全体が、ある種のメッセージを伝えている。ヴォルダンと戦うための鍵となる遺産は、形のないものなのかもしれない」
イシェは混乱した表情でテルヘルを見つめた。ラーンは静かに頷いた。遺産は形のないものだったのかもしれない。だが、彼らの前に広がる新たな道は、彼らを大きく変える可能性を秘めていた。