ビレーの朝はいつも早かった。ラーンが目を覚ますと、イシェがすでに火を起こして朝食の準備をしていた。小さな部屋には遺跡から持ち帰った石器や破片が雑然と置かれていた。
「今日はあの洞窟だな」
イシェは、 yesterday テルヘルから渡された地図を広げ、指で示した。ラーンの顔に興奮の色が浮かんだ。あの洞窟は、噂では古代文明の遺跡らしい。もしかしたら大穴があるかもしれない。
「よし、行くぞ!」
ラーンは剣を手に取り、イシェと共に外へ飛び出した。テルヘルは約束通り、ビレーの宿屋で待っていた。黒曜石のような瞳が鋭く二人を見つめた。
「準備はいいか?」
テルヘルは地図を広げ、洞窟の内部構造を説明した。複雑な通路と落とし穴、そして未知の危険。イシェは眉間に皺を寄せたが、ラーンは目を輝かせていた。
「大丈夫だ、俺たちならなんとかなる!」
洞窟の中は暗く湿っていた。足元には滑りやすい石が転がっている。イシェは慎重に進んでいくが、ラーンは相変わらず大雑把で、イシェを何度も焦らせている。テルヘルは二人を見下ろすように歩き、時折鋭い視線を向けてくる。
洞窟の奥深くで、彼らは巨大な石の扉を発見した。扉には複雑な模様が刻まれており、古代文明の文字らしきものが記されていた。イシェが慎重に扉を開こうとしたその時、ラーンが突然飛び上がった。
「わっ!」
扉に触れた瞬間、石の床から突如光が立ち上り、ラーンを包んだ。イシェとテルヘルは驚いて後ずさった。光はゆっくりと消え、ラーンの姿が見えた。
しかし、ラーンは何かが変わっていた。彼の目は鋭く輝き、肌は硬質な質感になっていた。まるで石の彫刻のように。
「ラーン?」
イシェが声をかけたが、ラーンは反応しない。彼はただ、石の扉をじっと見つめていた。そして、ゆっくりと口を開いた。
「ここは…私の家…」
その声は、かつてのラーンの声とは全く違っていた。それは、古代文明の石から生まれた、新しい声だった。