「よし、今日はあの崩れかけた塔だな。噂によると奥深くには未開の部屋があるらしいぞ」
ラーンの豪快な声は、ビレーの朝の薄暗い路地裏に響き渡った。イシェはため息をつきながら、彼の背後に続く。
「また噂話か?いつもそう言うのに、結局は錆びた剣と割れた壺ばかり見つけるじゃないか」
「いや、今回は違うって!ほら、テルヘルも賛成してるだろ?」
ラーンは振り返り、テルヘルに視線を向けると、彼女は薄暗い表情で頷いている。
「情報源は確実だ。ヴォルダン軍が同じ遺跡を調査していたという報告もある。何か価値のあるものがある可能性が高い」
テルヘルの言葉には力があり、イシェは仕方なく頷く。 ラーンの無計画さに辟易することも多いが、彼の持ち前の明るさと行動力は、時に大きな成果を生むこともあった。そして、今回はテルヘルも深く関与している。彼女の目的はヴォルダンへの復讐であり、そのために必要な情報は惜しみなく共有する。イシェは彼らを信頼し、共に進むことに決めたのだ。
遺跡へと続く山道は険しく、日差しが強くなると暑さも増してきた。ラーンとイシェは慣れた手つきで装備を整え、テルヘルは地図を手に先頭を歩く。彼女は遺跡の構造図を熟知しており、周囲の地形から位置を正確に把握しているようだ。
崩れかけた塔は、かつて栄華を誇った城塞の一部だったらしい。今は苔むした石壁と、吹き荒れた風に揺れる残骸のみが残っている。入口付近にはヴォルダン軍の足跡があり、イシェは警戒心を高める。
「ここからは慎重に進もう」
テルヘルが静かに言った。ラーンが興奮気味に塔の中へと飛び込もうとするのを制止し、三人は武器を構えながら内部へと足を踏み入れる。
塔内は薄暗く、埃っぽい空気が流れ込んでいる。崩れた石畳の上を慎重に歩き、彼らは奥へと進んでいく。壁には古びた絵画が残っており、かつてこの場所で何が起こっていたのかを垣間見せるように感じられた。
「ここだ」
テルヘルが壁の隙間を指さした。そこには小さな扉が隠されている。イシェは扉の隙間から覗き込むと、奥に広がる部屋が見えた。
「何か光っているぞ!」
ラーンの声で、三人は部屋へと続く通路を進む。そして、その光景に息を呑んだ。部屋の中央には、巨大な水晶が置かれており、その表面からは神秘的な光が放たれている。水晶の周囲には、古代の文字で書かれた碑文が刻まれていた。
「これは…」
テルヘルは目を輝かせながら、水晶に近づいていく。
「適合する…この水晶は私に適合する」
彼女は水晶に触れた瞬間、その表面から光がより激しく輝き、部屋全体を包み込んだ。イシェとラーンは驚愕しながら、テルヘルの姿を見つめる。彼女の周りには、まるで彼女を守るように光が渦巻き、そこに何か力が宿るような気がした。
「これは…ヴォルダンに奪われたものの一つだ」
テルヘルは水晶を手に取りながら、静かに言った。
「そして、これで私の復讐は一歩前進する…」