ラーンが石畳の上で転げ落ちた瞬間、イシェはため息をついた。
「またかよ、ラーン。お前は本当に…」
イシェの言葉は、埃っぽい風が吹き抜けるビレーの街路に消えていった。ラーンの背中には、見慣れた傷口が赤く滲んでいた。
「しょうがないだろ、イシェ。あの遺跡の入り口、急な階段だったんだもの」
ラーンはそう言いながら立ち上がり、肩をトントンと叩いた。
「それに、今回は大当たりだぞ!テルヘルに言ったら、喜ぶ顔が見れるだろう?」
イシェは眉間にしわを寄せた。
「喜ぶ顔?ああ、あの金持ちの娘が喜ぶのは、遺物か、それとも…」
イシェは言葉を濁した。テルヘルの目的は、遺跡から得られる遺物の価値よりもずっと深いものだったことを、イシェは知っていた。
「おいおい、イシェ。そんなに暗い顔をするなよ」
ラーンはイシェの肩を叩き、街の中心部へと歩き始めた。
「ほら、今日はビレーで祭りが開催されるんだって。美味しい酒と肉が無料で食べられるらしいぞ!」
イシェはラーンの言葉に少しだけ心が和んだ。
だが、テルヘルからの依頼を引き受けた日から、彼らの生活は以前とは変わってしまった。遺跡探索の目的は、単なる金儲けではなくなったのだ。
街の中心部では、活気のある音楽と人混みで賑わっていた。ラーンはイシェを引っ張って酒の屋台へ行き、大きな声で杯を傾けた。
「よし、イシェ!今日は思いっきり楽しもうぜ!」
イシェは苦笑いした。ラーンの無邪気さに、イシェはいつも安心感と同時に、どこか寂しさを感じていた。
だが、イシェもまた、テルヘルに抱く深い憎悪を隠すために、この街で暮らすことを選んだのだ。
「そうだ、ラーン。今日は楽しむことにしよう」
イシェはそう言って、酒を一口飲んだ。
その時、遠くから物陰に隠れる影が、彼らをじっと見ているのが見えた。