ラーンの大斧が石壁に激突した。轟音と石塵が立ち込め、一瞬視界を奪った。イシェは咳き込みながら「また無駄だ、ラーン。あの壁には何か仕掛けがあるはずだ」と指摘する。ラーンは肩をすくめた。「いや、今回は違う気がするんだ。あの壁、なんか温かかったぞ?」
テルヘルが近づき、石壁の表面を指先でなぞった。「確かに…奇妙な熱量を感じる。もしかしたら、この遺跡は単なる遺物庫ではないのかもしれない」彼女の目は鋭く光っていた。
数日前から彼らは、ビレーの郊外に新しく発見された遺跡に挑んでいた。過去の記録も乏しく、周囲には異常なほど多くの魔獣が生息していたため、他の探索隊は既に撤退している。だが、テルヘルは、この遺跡がヴォルダンとの戦いに重要な手がかりを握っていると確信していた。
「よし、俺たちが開けちゃえばいいんだろ?」ラーンは再び斧を振り上げたが、イシェが彼を引き止めた。「待て、ラーン。何か罠があるかもしれないぞ」
テルヘルは慎重に壁の表面を調べ始めた。「この模様…これって、遡行魔法の記号じゃないか?」彼女は驚愕の声をあげた。遡行魔法とは、過去へ遡ることを可能にする伝説の魔法であり、その知識は失われたとされていた。
「過去へ遡る…?まさか…」イシェが目を丸くする。「もしそうなら、この遺跡はとんでもないものなのかもしれない」
ラーンの表情も硬くなった。「過去…ということは、ヴォルダンとの戦いに繋がる何かがあるのか?」
テルヘルは深く頷いた。「そうかもしれない。そして、その鍵を握るのは、この遺跡にあるはずだ」