ビレーの街並みが、夕暮れの薄闇に溶け始めていく頃、ラーンが大きなため息をついた。今日も遺跡探査は空振りに終わった。イシェはいつものように、彼の肩を軽く叩きながら言った。「また明日か? ラーン、そろそろ現実を見るべきじゃないかな。」
ラーンの視線は、街の向こう側に広がる山脈に向けられた。遥か彼方、ヴォルダンとの国境付近にそびえる山々の峰々は、夕日に染まり、まるで燃え盛る炎のように見えた。「いつかあの山々を越えて、ヴォルダンの心臓部にある遺跡を探したい」ラーンは呟いた。
イシェは小さく笑った。「現実逃避するなよ、ラーン。あそこは危険すぎるぞ」。彼女は自分の視線を、少しだけ離れた場所に向けた。テルヘルが、遠くから彼らを見つめていた。夕暮れの影に隠れながらも、その鋭い眼差しはラーンの背筋を寒くさせるものがあった。
「あの女のことか?」ラーンが尋ねると、イシェは頷いた。「あの遺跡の噂は本当らしい。ヴォルダンが何年も前に手に入れたとされる、伝説の剣…」
ラーンの心は高鳴った。大穴、そしてテルヘルの復讐。遠くに見える山脈と、その麓に広がるビレーの街並み。二つの遠近が、ラーンの胸に熱い想いを掻き立てる。
「よし、イシェ。明日から準備だ。あの遺跡を探し出すぞ!」ラーンは言った。イシェは深くため息をつきながらも、ラーンの決意に合わせるように頷いた。
テルヘルは静かに立ち去り、夕暮れの影の中に溶けていった。彼女の目的は何か。そして、その目的がラーンとイシェの運命をどう変えるのか。誰も知る由もなかった。