ラーンの粗雑な剣 swing が埃を巻き上げ、遺跡の奥深くへと消えていく。イシェは眉間に皺を寄せながら、彼を見つめた。
「また壊れそうになったぞ。あの石碑は一体何だったんだ?」
「なんだって?いい石だったろ?価値ある遺物が見つかれば、俺たちだって大金持ちになれるんだ!」
ラーンの明るい声に、イシェはため息をついた。「そんな楽観的なことを言ってる場合じゃないわ。あの石碑には何か記されていたはずなのに、こんな風に無造作に扱われたら…」
「ま、大丈夫だ。テルヘルが見てるし。」
ラーンが指差した先に、テルヘルの姿があった。彼女は石碑の破片を慎重に拾い上げ、細かな文字を解読していた。その目は冷たく、表情は硬かった。イシェには、いつもどこか影のある彼女の姿が気にかかっていた。
「何かわかったのか?」
ラーンの問いかけに、テルヘルはわずかに頷いた。「この石碑には、かつてこの地に栄えた王朝の記録が刻まれていたようだ。そして…」彼女は視線をラーンとイシェに向けた。「その王朝の末裔が、今なおこの地にいる可能性がある。」
「末裔か…?」
ラーンの顔色が変わった。イシェは彼の表情をじっと見つめた。ラーンの祖先は、かつてこの地に栄えた王国に仕えていたという言い伝えがあった。遠い昔の話だったが、彼にとってそれは誇りであり、憧憬の対象でもあった。
「もし、本当に末裔がいるとしたら…」
ラーンの声が震えるように小さく響いた。「俺たちの未来は…」
イシェはラーンの言葉を遮った。「まだ何も確定したわけではないわ。冷静に考えないと。」
だが、イシェ自身の心にも、何かがざわざわと動き始めた気がした。テルヘルが言った言葉、そしてラーンの興奮した表情。それは、彼らの人生を大きく変えるかもしれない予兆だったのかもしれない。
そして、イシェは密かに考えた。「もし、本当にラーンが王朝の末裔だとしたら…?」
遠い過去に隠された真実、そして、それによって揺り動かされる彼らの運命。イシェは、静かに息を呑んだ。