ビレーの朝はいつもと変わらない喧騒で始まった。ラーンがイシェを起こすのに苦労している声が、薄暗い路地裏から聞こえてくる。今日も遺跡探索だ。 ラーンの寝ぼけた顔を見つめながら、イシェはため息をついた。「また大穴の話か?あの話、もう何回聞いたかわからないよ」。
「違うんだって!今回は確信があるんだ!」ラーンは目を輝かせた。「ほら、テルヘルがくれた地図を見てみろよ。あの記号…あれは間違いなく大穴を示しているに決まってるだろ!」
イシェは地図を手に取ると眉間に皺を寄せた。確かに、地図には見慣れない記号が描かれていた。しかし、それはただの奇妙な模様に見えただけだった。「ラーン、あの記号…見たことないんだけど…」
「ああ、珍しい遺跡らしいんだって。テルヘルが言うには、ヴォルダンから奪った古代の文献に載っていたらしいぞ!」ラーンの目は興奮で輝いていた。
イシェはラーンの熱気に押されるように頷いた。テルヘルの話なら信憑性がある。彼女はいつも自分の目的のために必要な情報を探し出す。だが、今回は何かが違った。イシェには、この遺跡探索に潜む違和感を感じ取ることができなかった。地図の記号、テルヘルの言葉…どこかで見たような気がしたのだ。
「よし、準備だ!」ラーンは剣を手に取り、イシェに声をかけた。「今日は大穴を見つけるぞ!」
イシェは深く息を吸い込み、後ろ髪を引かれる思いでラーンの後を追った。ビレーの喧騒が徐々に遠ざかり、遺跡へと続く道に足を踏み入れた瞬間、イシェの背筋に冷たい風が吹き抜けた。何かが amissだ。その直感が、イシェの心を締め付けた。