「よし、今回はあの崩れかけた塔だ!イシェ、地図を確認してくれ!」
ラーンが拳を握りしめながら目を輝かせた。イシェは眉間に皺を寄せながら、使い古された羊皮紙の地図を広げた。
「あの塔は危険だって聞いたよ。崩落する可能性が高いし、中も罠だらけらしいわ」
「そんなこと言わずに、ワクワクしてろよ!もしかしたら大穴が見つかるかも!」
ラーンの言葉にイシェはため息をついた。いつも通りのラーンだ。計画性もなく、危険を顧みない。だが、彼の無鉄砲な行動に巻き込まれることで、時には予期せぬ発見があったりもする。
「わかったわ。でも、今回は特に慎重に進もうね」
イシェは地図をしまうと、テルヘルの方を見た。「テルヘルさん、何か情報をお持ちですか?」
テルヘルは鋭い視線で塔を見つめていた。彼女は口を開く前に、ラーンが先に声を上げた。
「おい、テルヘル!あの塔には何があるって知ってるのか?何か珍しい遺物でも出たら、俺たちに分け前くれよな!」
「情報提供と引き換えに報酬を支払うのが我々の契約だ」
テルヘルの言葉は冷たかった。ラーンの無邪気な期待を打ち砕くように。彼女はゆっくりと口を開き始めた。
「あの塔には、かつてこの地に君臨した王の墓があると噂されている。もし彼が持つ『達人』の遺物があれば…」
彼女の言葉が途切れると、ラーンは興奮気味に叫んだ。
「達人!?まさか!それなら大穴だ!」
イシェはラーンの熱気に圧倒されながらも、テルヘルの言葉の意味を深く考えていた。
「達人」とは何か?なぜヴォルダンとの復讐のためにそれを探すのか?
イシェは胸の奥底で不安を感じながら、塔へと続く道を歩み始めた。