冷たい風が吹き荒れる遺跡の入り口で、ラーンがイシェの肩を叩いた。「今日は俺が先頭だ！」 いつものように豪語するラーンの顔は、普段より少しだけ硬かった。イシェは彼の様子を伺いつつ、小さく頷いた。彼らは最近、テルヘルから依頼を受けるようになってから、いつも以上に緊張感が高まっていた。
遺跡の中は薄暗く、埃が舞っていた。ラーンは剣を構え、足音を立てないように慎重に進んでいく。イシェは後ろから彼の動きを注視し、時折地図を確認する。彼らは過去に何度か遺跡探検中に、思わぬ罠にはまった経験があったからだ。
「何か変だぞ」ラーンの声が響いた。イシェもすぐに気づいた。壁一面に描かれた奇妙な記号が、どこかで見た覚えがある。イシェは過去の文献を思い出しながら、ゆっくりと記号を辿っていく。すると、ある場所にたどり着くと、その記号が突然途絶えていた。
「ここだな」テルヘルが近づいてきて、壁の隙間を指さした。「この先に何かがあるはずだ」彼女の目は鋭く光っていた。ラーンはテルヘルの指示に従い、壁の隙間をこじ開ける。すると、奥には小さな部屋があった。部屋の中央には、石棺が置かれていた。
「宝だ！」ラーンの目が輝き始めた。「ついに大穴が見つかった！」 イシェも興奮を抑えきれずに、石棺に近づいていく。しかし、その時、テルヘルが彼らを制止した。「待て！」 彼女の表情は一変していた。
「この石棺、見たことがある」テルヘルはゆっくりと口を開いた。「かつてヴォルダンで発見されたものと同じだ」彼女は過去を思い出しながら、震える声で続けた。「あの時、ヴォルダンは...」
ラーンとイシェは彼女の言葉を聞きながら、過去の出来事を想像した。それは、テルヘルのすべてを奪った、恐ろしい事件の始まりだった。