ビレーの酒場「荒れ狂う狼」は、いつもより騒がしかった。執政官選挙の話題で持ちきりだ。ラーンはイシェの顔をじっと見つめていた。彼女の眉間に皺が寄っていることに気が付いた。
「どうしたんだ? イシェ。顔色が悪いぞ。」
「ああ、別に...」とイシェは答える。しかし、その視線は遠くを見つめている。
「またあの夢か?」ラーンの言葉に、イシェは小さく頷く。
最近、イシェは毎晩同じ夢を見るという。荒れ狂う砂嵐の中、巨大な遺跡がそびえ立ち、その頂上には輝く宝が...。そして、その宝に触れた瞬間、彼女は深い闇に飲み込まれる。
「あの夢は、ただの悪夢さ」ラーンはそう言ったが、自分の心にも不安がよぎる。「大穴」を見つけるという夢は、彼自身も諦めかけている。
そのとき、扉が開き、テルヘルが入ってきた。彼女はいつもと違う表情をしていた。
「新しい依頼があるわ」彼女は言った。声は低く、どこか緊迫感があった。「ヴォルダンとの国境付近に、かつてない規模の遺跡が発見されたらしい。報酬は...」彼女は言葉を止めた。
「いくらだ?」ラーンが尋ねた。
テルヘルはゆっくりと口を開いた。「10万ゴールド」
ラーンの目を見開いた。それは彼らが今まで受けた依頼の何倍もの金額だ。イシェも驚きを隠せない。しかし、彼女の表情は複雑だった。夢に出てくる遺跡...そして、その遺跡にまつわる予兆のような不吉な予感。
「行くか?」ラーンがイシェを見る。彼女は深く息を吸い込んだ。
「ああ」とイシェは言った。「行くわ」