ラーンが巨大な石の扉に手を当てた時、イシェは背筋が凍り付く感覚を覚えた。いつも通りの遺跡探索のはずだったのに、扉から漂う不気味な静けさと、ラーンの瞳に宿る狂気に満ちた光が、そうさせるのだ。
「よし、開けたぞ！」
ラーンの豪快な叫びが、埃っぽい空気を切り裂くように響き渡った。扉は轟音と共にゆっくりと開いていき、その先に広がるのは漆黒の空間だった。イシェはテルヘルに視線を向けようとしたが、彼女はすでにラーンに続いて内部へと足を踏み入れていた。
「待て！何か変だぞ」
イシェの言葉は虚しさを帯びていた。ラーンとテルヘルは既に闇の中へ消えてしまい、イシェは二人を呼び止める声すら届かずに、一人取り残されてしまった。
彼女は深く息を吸い込み、懐から小さなランプを取り出した。炎が揺らめく光は、わずかな範囲しか照らし出すことができない。しかし、それでもこの遺跡の異様な雰囲気をさらに際立たせるには十分だった。壁には奇妙な文様が刻まれており、床には不規則に散らばった骨が、まるで警告のようにイシェの前に立ちふさがる。
「これは…一体何だ？」
イシェは震える手でランプを高く持ち上げ、闇の中を照らそうとした。その時、彼女は遠くからかすかに聞こえる声がしたように思った。それはまるで、誰かが囁くような、低くて不気味な声だった。
「運命…運命…」
声は次第に大きくなり、イシェの耳を刺すように響き渡った。「運命」という言葉が繰り返し繰り返され、彼女の心を締め付けるように圧力をかける。イシェは恐怖で体が硬直し、一歩も動けなくなってしまった。
その時、後ろから声が聞こえた。
「イシェ！大丈夫か？」
ラーンの声が、闇の中から響いてきた。イシェは振り返ると、ラーンとテルヘルが戻ってきた。二人は顔色が悪く、何かを察知したようだった。
「ここには何かいる…」「何か恐ろしいもの…」
ラーンの言葉に、イシェは深く頷いた。彼女は自分がこの遺跡に足を踏み入れた瞬間から、運命という名の暗い影に飲み込まれていくのを感じたのだ。そして、その影が自分たちをどこへ導くのか、想像もつかない恐怖に襲われた。