「おい、イシェ、今日はいい感じの場所が見つかったぞ！」ラーンの声が、ビレーの賑やかな市場の喧騒を一瞬にして吹き飛ばした。イシェは、ラーンが興奮気味に振るう地図を少し引いて確認し、「またか…」とため息をついた。「あの洞窟のこと？ 結局何も見つからなかったでしょう」
「違うって！今回は違うんだ！この地図、よく見てみろ！」ラーンの指が地図の一角を突いている。「ここ、ほら、こんな記号があるだろ？これは遺跡の入り口を示してるって！」
イシェは眉間に皺を寄せた。確かに記号はあるが、それはただの奇妙な模様で、遺跡を示すものとは断言できない。「ラーン、また無駄な期待を…」
「無駄じゃないんだって！ほら、テルヘルも言ってただろ？遺跡の近くには必ず何かあるって！」
イシェはラーンの熱意に押され、結局頷いた。テルヘルは、彼らの遺跡探索のスポンサーであり、ヴォルダンへの復讐心を燃やす謎の女性だった。彼女はいつも冷静沈着で、遺跡について独自の知識を持っていた。イシェは彼女の言葉には耳を傾けるようにしていたが、ラーンの無計画さに巻き込まれることも少なくなかった。
「よし！準備はいいか？今日は大穴を見つけるぞ！」ラーンは目を輝かせ、剣を手に取った。イシェはため息をつきながら、小さな道具袋を肩にかけ、「また無駄な期待を抱かせるだけだろう」と呟いた。
彼らは市場から抜け出し、山道を登り始めた。日差しが強く、暑かったが、ラーンの熱意は衰えなかった。「あの洞窟はただの遊び場だったかもしれないけど、今回は違うんだ！必ず何か見つかる！」彼の声は、まるで子供の興奮を思わせるものだった。イシェは、彼を見つめながら、どこか寂しさを感じた。
日が暮れ始めた頃、彼らは山腹にある小さな洞口の前に到着した。ラーンの表情が曇り、地図を広げ直す。「おかしい…ここに記号があるはずなのに…」イシェは、ラーンの肩を軽く叩いた。「今日はもう諦めようよ」
その時、洞口から薄暗い光が漏れてきた。ラーンは目を輝かせ、「もしかして…！」と駆け出すように洞窟の中へ入っていった。イシェはため息をつきながら、後を追った。
洞窟の中は湿気で冷たかった。ラーンの懐中電灯の光が壁を照らし出すと、そこには不思議な模様が刻まれていた。イシェは目を丸くした。「これは…！」
その時、ラーンが叫んだ。「あった！大穴だ！」彼の声が洞窟にこだました。イシェは、ラーンの指差す方向を見つめた。そこにあったのは、巨大な水晶の塊だった。それはまるで、遊び場のように広がる宇宙を映し出しているようだった。
イシェは息を呑んだ。ラーンが夢見た大穴は、想像をはるかに超えるものであった。