ビレーの朝は早かった。ラーンが目を覚ますと、イシェはすでに準備を終えていた。「今日はあの西の遺跡だ。テルヘルが新しい情報を入手したらしい」イシェはそう言うと、道具を整理する動作を続けた。ラーンはあくびをしながら起き上がった。「またテルヘルか。あの女は何を狙ってるんだ？」ラーンの顔には、少し不満の色が浮かんでいた。
イシェは苦笑しながら答えた。「わかってないのね。彼女はヴォルダンに復讐したいと思っているのよ。遺跡から何か見つけることで、その力になるものがあると考えているみたいだ」イシェはテルヘルの目的については理解していたが、ラーンのように軽率に扱うわけにはいかなかった。
「そんなことより、今日は俺が先陣を切るぞ！あの大穴が見つかったら、みんなで大騒ぎだ！」ラーンの目は輝き、いつもの無邪気な笑顔を見せた。イシェは深くため息をつきながらも、ラーンの肩を叩いた。「わかったわよ。でも今回は気を付けてね。テルヘルが言うには、あの遺跡は危険らしい」
三人はビレーから西に伸びる山道へと向かった。テルヘルはすでに遺跡の入り口で待っていた。彼女はいつもより真剣な表情をしていた。「今日は特に注意が必要だ。遺跡内部にはトラップが仕掛けられている可能性が高い」テルヘルの言葉は重みがあった。ラーンとイシェは互いに顔を見合わせた。
遺跡の入口は崩れかけており、薄暗い光が差し込んでいた。ラーンは剣を抜き、イシェは慎重に足場を確認しながら内部へと進んだ。テルヘルは後から続く形で、鋭い視線で周囲を見回していた。遺跡内は湿気が多く、カビ臭い空気が漂っていた。壁には奇妙な絵画が描かれており、何かの物語を語りかけているようだった。
進むにつれて、遺跡の構造は複雑になっていった。狭い通路や急な階段、崩れかけた天井など、様々な障害物があった。ラーンは軽快に飛び越えたり、壁をよじ登ったりしながら進んでいたが、イシェは慎重に足場を確認しながらゆっくりと進んでいった。テルヘルは常に彼らの後方で、状況を把握しながら指示を出していた。
そしてついに、彼らは遺跡の奥深くにたどり着いた。そこは広大な部屋で、中央には巨大な祭壇があった。祭壇の上には、金色の光を放つ球体が鎮座していた。
「あれが…？」ラーンの声が震えた。「大穴だ…」イシェも目を丸くした。テルヘルは興奮を抑えきれず、祭壇に近づこうとした。しかしその時、床から鋭い棘が飛び出した！ラーンは咄嗟にイシェを引っ張り、テルヘルは剣を抜き、棘をかわした。
「罠だ！」テルヘルの声が響いた。遺跡の奥深くに眠る大穴は、同時に多くの危険をも孕んでいたのだ。