ラーンが巨大な石の扉をこじ開ける音が、埃っぽい空間に響き渡った。イシェは懐中電灯を振り回し、薄暗い奥へと視線を落とす。
「やっぱり何もないんじゃないか?」
イシェの声に、ラーンは苦笑した。
「そんなこと言わずにさ、もう少し探してみるか?ほら、ここ見て!」
ラーンの指が示したのは、壁に刻まれた奇妙な模様だった。幾何学的な図形が複雑に絡み合い、まるで生きているかのように脈打つようだった。イシェは眉をひそめた。
「これって…見たことあるような…」
彼女は過去の遺跡探索で目にした記録を思い出そうとするが、何処かで見たような既視感だけで、具体的な記憶はぼんやりとしか浮かばない。
その時、テルヘルが背後から近づいてきて、低く呟いた。
「これは…ヴォルダンの紋章だ」
イシェは息をのんだ。ヴォルダンはエンノル連合にとって脅威であり、その紋章を見るだけで戦慄が走った。ラーンは困惑した顔でテルヘルを睨みつけた。
「何言ってんだよ?ヴォルダン?」
「この遺跡は、ヴォルダンが何らかの目的で利用していた可能性が高い」
テルヘルの目は鋭く光り、どこか狂気じみた輝きを放っていた。
「そして、その目的は…我々にとって非常に危険なものである可能性がある」
ラーンとイシェは互いに顔を見合わせた。彼らは遺跡探索の依頼を受けたときから、テルヘルがヴォルダンに何かしらの因縁を持っていることを感じ取っていた。しかし、その真意を知ることはなかった。
「つまり…何が危険だっていうんだ?」
イシェの問いかけに、テルヘルはゆっくりと答えた。
「ヴォルダンは、連綿と受け継がれてきた古代の力を求めている。そして、この遺跡には、その力を解き放つ鍵が眠っているのかもしれない」