ビレーの酒場「荒くれ者の宿」はいつも賑やかだったが、今日は特に活気があった。ラーンの豪快な笑い声とイシェの乾いた皮肉が交差し、テルヘルはいつものように二人を見つめていた。
「なあ、イシェ、お前もそろそろあきらめろよ。俺たちの大穴が見つかるのは時間の問題だ!」
ラーンは酒をぐいっと飲み干すと、テーブルを叩きつけながら言った。イシェはため息をつき、視線を変えた。
「大穴なんて、ただの夢話だよ。現実的に考えてみろ、ラーン。俺たちはいつまでこんな底辺暮らしを続けられるんだ?」
イシェの言葉がテルヘルの心に刺さった。彼女は静かに酒を一口飲み、二人の喧嘩を眺めていた。二人は互いに反発し合っていたが、どこかで信頼関係を築いているようにも見えた。
「大穴」は、彼らの共通の夢であり、目標でもあった。しかし、テルヘルにはそれ以上の意味があった。それはヴォルダンへの復讐を果たすための資金源だった。彼女は過去にヴォルダンから奪われたものを取り戻すために、どんな手段も厭わなかった。
ラーンの豪快な性格とイシェの冷静な判断力は、彼女にとって必要な要素だった。そして、この二人が「大穴」を見つけることで、彼女の復讐劇は加速するだろう。その瞬間を思い描きながら、テルヘルは唇をわずかに曲げた。
すると、ビレーの街の外れで火事が発生したとの知らせが入った。ラーンとイシェはすぐに駆け出そうとしたが、テルヘルは彼らを止めようと手を伸ばした。
「待て。あの火事には何かある。俺たちには別の仕事がある」
テルヘルの言葉に、ラーンとイシェは戸惑った。しかし、彼女の鋭い眼光に押されるように、二人は渋々従った。
三人は火事の現場へ向かう途中、森の中で一人の男と出会った。男は重傷を負っており、意識が朦朧としていた。テルヘルは男を助けるために、彼を隠れ家に連れて行った。
男はヴォルダンに追われている学者だった。彼は重要な情報を持ち、ヴォルダンから逃げるためにビレーに来たという。その情報は、ヴォルダンが「大穴」の場所を知っている可能性を示唆するものであった。
テルヘルは興奮を抑えきれなかった。これはまさに彼女が待ち望んでいたチャンスだった。「逢瀬」を約束されたかのように、運命が彼女に微笑みかけている気がした。そして、ラーンとイシェもこの情報によって、自分の夢に近づいていることを実感し始めた。
三人は力を合わせて、ヴォルダンから学者を守り、情報を手に入れるために動き出す。彼らの前に広がる道は危険で険しいものだったが、彼らは互いに支え合いながら、希望の光に向かって進んでいくことを決意した。