ラーンがいつものように遺跡の入り口でイシェを待っていると、テルヘルが不機嫌な顔でやって来た。「遅れたな、イシェは?」とテルヘルが言うと、イシェは少し咳払いをして、「すみません、ちょっと用事があって」と答えた。ラーンの鋭い視線にイシェは小さく頷き、テルヘルの方を向いて「今日は特に危険な遺跡らしいから、念のため準備を念入りにしたんだ」と言った。
テルヘルは眉間に皺を寄せながら、「そんなことで時間を使う必要はない。早く始めなければ、日が暮れる前に戻れなくなるぞ」と急かしたが、イシェは動じずに、自分の道具を丁寧に整理し始めた。ラーンの視線を感じてイシェは少しだけ顔を赤らめたが、すぐに落ち着いて、テルヘルに「準備が終わりました」と告げた。
遺跡の入り口は、いつも通り薄暗く、湿った空気が漂っていた。彼らは三人で遺跡の中へと足を踏み入れた。深い闇の中にいるようだった。ラーンの後ろをイシェが歩き、テルヘルが先頭を切って進んだ。
道中、イシェが何かに気づいたようで立ち止まった。「何かあったのか?」とラーンが尋ねると、イシェは「少し前に、何か音がしたような気がした」と答えた。しかし、周りを見回しても何も見当たらない。テルヘルは不機嫌な顔で「そんなことで時間を無駄にするな」と言ったが、イシェは「でも…」と言い淀んだ。
その時、突然雨が降り始めた。通り雨だった。雨が激しくなり、視界を遮るほどになった。ラーンは慌てて頭上に手を挙げ、イシェもテルヘルも同様に身を保護した。
「ここは早く抜け出さないと」とテルヘルが叫んだが、その声は雨音にかき消されてしまった。彼らは三方向に分かれて逃げ出した。
雨はすぐに止んだが、彼らの足取りは重かった。イシェはラーンを振り返ると、彼が以前よりも真剣な表情で前に進んでいることに気づいた。ラーンの顔には、以前のような無邪気さはなく、何かを決意したような表情が浮かんでいた。