ラーンが巨大な石の扉を叩き割る音が、埃っぽい遺跡内部にこだました。イシェは眉間に皺を寄せながら、後ろから「また壊すのか？ そんな力技で開けられるものなら、最初から鍵を探せばいいのに」と呟いた。
「いや、鍵なんてないだろ。それに、この扉、なんか怪しい雰囲気だろ？ 何か隠してる気がするんだ」ラーンは胸を張って答えた。彼の目は、扉の奥に広がる漆黒の闇に輝いていた。イシェはため息をつきながら、テルヘルの方を見た。
テルヘルは静かに石畳の上を歩み、指先で壁を撫でている。彼女の顔色は、まるで影の中にいるようだった。「この遺跡は、ヴォルダン軍が以前調査していた場所だ」と彼女は言った。「彼らが何を求めていたのか、そしてなぜ途中で放棄したのか…そこには何か理由があるはずだ」
ラーンの瞳はさらに輝きを増した。「つまり、大穴に繋がるかもしれないってことか？」彼は興奮気味に剣を構えた。イシェはテルヘルの言葉の意味を考えていた。「ヴォルダン軍が放棄した理由…それは一体…」
彼らは闇の中を進み始めた。壁には不思議な模様が刻まれており、まるで透き通った水の中に沈んだようにぼんやりと見えた。ラーンの足音は重く、イシェの呼吸は浅くなっていた。テルヘルだけが静かに、そして確実に進んでいく。
突然、壁から光が漏れてきた。それは、まるで水晶の破片のように輝いていた。ラーンが駆け寄ると、その光はさらに強くなり、壁全体を包み始めた。そして、壁はゆっくりと透過し、その向こう側にある光景が姿を現した。
そこには、広大な空間が広がり、中央には巨大な水晶体が鎮座していた。水晶体からは、まるで心臓の鼓動のように脈打つ光が放たれている。ラーンの顔色は蒼白になり、イシェは息を呑んだ。テルヘルだけが、静かに微笑んだ。「ここに、答えがある」
彼女はゆっくりと水晶体に向かって歩み始めた。その姿は、まるで影の中にいるようだった。そして、水晶体が放つ光に包まれ、彼女は完全に透過するように、見えなくなった。