「準備はいいか？」
ラーンの問いかけにイシェは小さく頷いた。ビレーの郊外でテルヘルが指定した遺跡へ向かう道は、石ころがゴロゴロと転がる険しい山道だった。日差しが容赦なく降り注ぎ、背中には汗が滲む。ラーンはそんな状況にも動じず、軽快に歩を進める。イシェは彼の様子を見てため息をつく。
「またあの遺跡か…」
テルヘルが提示した報酬は魅力的だった。しかし、その遺跡はかつての戦場であり、危険な罠が仕掛けられていると噂されていた。イシェはラーンの冒険心にはついていくものの、常に不安を抱えていた。
「大丈夫だ、イシェ。今回は大穴が見つかる予感しかしない！」
ラーンがそう言うと、彼の背中にそびえ立つ巨大な岩壁を指差した。岩壁には幾筋ものひび割れが走っており、そこから不気味な影が差し込んでくる。「あのひび割れから何かが出てきそうな気がするんだ」とラーンは目を輝かせた。
イシェは彼の興奮に巻き込まれそうになりながら、「そんなものはないだろう…」と呟いた。だが、その言葉を口にする前に、地面が激しく揺れた。三人はバランスを崩し、転倒した。
「何だこれは！」
ラーンの叫びが岩壁にこだました。目の前では岩盤が崩れ落ち、巨大な穴が開いていた。そこから冷たい風が吹き出し、底なしの闇が広がっているように見えた。
「逃げ場がない…」
イシェは恐怖に襲われた。この遺跡には逃げ場がないと感じたのだ。
ラーンの顔色も青白くなっていたが、彼は立ち上がるとテルヘルに向かって剣を構えた。「お前が言った通りだ！大穴だ！」と叫んだ。だが、その声は興奮ではなく、恐怖を隠すように震えていた。
テルヘルは冷静に状況を判断し、「あの穴に入るしかない」と言った。イシェは彼女の言葉に驚き、ラーンも渋い顔をした。「逃げ場がないなら…」とラーンが呟くと、三人は互いに力を合わせて遺跡の奥へと進んでいった。