「よし、今日はあの洞窟だな!」
ラーンが興奮気味にそう言うと、イシェはため息をついた。 いつも通りの、計画性ゼロの行動だ。
「また遺跡探検? ラーン、そろそろ現実を見ろよ。大穴なんて見つからないって」
「そんなこと言わないでよ、イシェ!いつか必ず見つかるさ。ほら、あの洞窟には古代の剣が眠っているって噂だろ?」
イシェはラーンの目をじっと見た。「噂を鵜呑みにするなと言っただろう。それに、あの洞窟は危険だ。以前から何人もの探検隊が行方不明になっている」
「へっ、そんなんで諦めるか?俺たちは違う!必ず宝物を手に入れるんだ!」
ラーンの熱意に押されるように、イシェは結局ついて行くことになる。 いつも通り。だが、イシェの心には不安がよぎっていた。最近、ラーンが遺跡探検に熱中するようになったのは、単なる冒険心だけではないと感じていたからだ。
ビレーで暮らしていた頃、ラーンの顔色を伺うようにして暮らしていた時、ある出来事があったのだ。 それは、ラーンの家族がヴォルダン軍に襲われた夜のことだった。ラーンは必死に抵抗するも、両親は目の前で殺されてしまった。
その日から、ラーンの目は変わった。かつての活発な少年は、どこか影をまとったように感じられた。そして、遺跡探検に熱中するようになったのだ。イシェは彼の中に、復讐心を燃やす炎を感じていた。
洞窟の中は暗く湿っていた。 ラーンが先頭を切り、剣を手に警戒しながら進む。イシェは後ろからラーンの様子を見守る。彼の背中には、かつての笑顔と、今は消えない深い悲しみが重なっているように見えた。
「イシェ、何か聞こえるか?」
ラーンの声がする。イシェは耳を澄ます。すると、かすかな金属音が聞こえてくるようだ。
「あの音…!」
ラーンの目が輝き始めた。それは、興奮ではなく、何か別のものだった。 イシェは、ラーンの背中に抱える影が、今にも爆発しそうになっているのを感じた。
その時、洞窟の奥から低い声が響き渡った。 それは、まるで古代の人間の囁きだった。
「お前たちは…誰だ?」