ラーンが石ころを投げ飛ばすと、それは空高く舞い上がり、遠くで小さく光るビレーの灯りを目指して飛んでいった。イシェは眉間に皺を寄せながら、「また無駄なことを…」と呟いた。
「あいつらに見せつけるんだってば！俺たちがどれだけ自由に生きてるか！」ラーンはそう言って胸を張った。彼には、この遺跡探索で得たわずかな金銭よりも、ビレーに帰る道中で見せるイシェの顔を想像する方がずっと嬉しかった。
テルヘルは二人を見つめて、「無駄な時間だ」と冷たく言った。「目標達成まで、あと少しだ。気を引き締める必要がある」
「わかったわかった、お偉いさんは落ち着いてくれよ」ラーンはそう言って剣を構えた。イシェも小さなため息をつきながら、地図を広げた。遺跡の奥深くで、彼らの前に広がるのは、巨大な石柱が密集する迷宮だった。
テルヘルは「あの石柱の間には、古代の機械が残されているという情報がある」と説明した。「今回は、その機械を手に入れるのが目的だ」
イシェは「機械？」と尋ねた。「どんなものなの？
テルヘルは少しだけ口元を歪ませた。「それは重要ではない。君たちにはその機械を運び出す役割があるだけだ」
ラーンの背筋がゾッとするような感覚に襲われた。テルヘルの言葉の裏に、何か不吉なものを感じ取ったのだ。イシェも彼の表情を見つめ、「何か隠していることがあるんじゃないか？」と疑いの目を向けた。
だが、テルヘルは何も言わず、ただ「さあ、進もう」と切り出した。三人は迷宮へと足を踏み入れた。石柱の間を縫うように進むにつれ、空気が重くなっていった。まるで、何かが彼らを監視しているような気がしてならない。
すると、後ろから冷たい風が吹き荒れた。ラーンは振り返ると、そこには何もなかった。だが、彼の背筋にぞっとするほどの寒さを感じた。「何だあの風…？」イシェも不安そうに言った。
その時、突然、石柱の一つが音を立てて傾き始めた。ラーンの足元を大きく揺るがし、彼を転倒させた。イシェは咄嗟にラーンの腕をつかんで引っ張り上げた。「大丈夫か？」と声をかける。ラーンはうなずくと、立ち上がろうとしたその時、再び石柱が崩れ始めた。
「逃げろ！」テルヘルの叫び声が響いた。三人は慌てて迷宮から逃げ出した。振り返ると、遺跡の入り口付近で巨大な石柱が崩れ落ち、その隙間から激しい風を巻き込んでいた。まるで、何かが彼らを追い詰めるように。
ラーンの背中に冷たい汗が流れ出す。イシェはラーンの手を強く握りしめ、「大丈夫だ。俺たちが一緒に逃げれば…」と励ます。テルヘルは冷静に状況を判断し、安全な場所へと導いていく。三人は互いに助け合いながら、遺跡から脱出した。
ビレーの街灯が近づいてくるにつれ、ラーンの心にも少しだけ安堵が広がった。イシェの顔を見つめると、彼女はわずかに笑みを浮かべていた。
「あの風…」ラーンは呟くと、イシェと目が合った。「あれは何だったんだろう？」
イシェは何も言わずに、ただ頷いた。三人は互いに言葉なく、ビレーへと歩いていった。彼らの背後には、遺跡の崩落がゆっくりと静まり返っていく音が響いていた。そして、遠くで小さく聞こえるような、かすかな風の音。それはまるで、彼らを追いかけるように、どこまでも続くかのような…。