ビレーの朝はいつも早かった。ラーンの寝ぼけた顔にイシェが冷たい水をかけて起こすのも日課だった。今日はテルヘルからの依頼だ。遺跡の調査で、特に古い地図に記された場所を探し出すというものだった。報酬は高額で、ラーンは目を輝かせながら準備を始めた。イシェはいつも通り冷静に地図を広げ、念入りに確認していた。
遺跡への道は険しく、見慣れない植物が生い茂る森を抜ける必要があった。ラーンの粗雑な足取りとは対照的に、イシェは静かに周囲を観察し、時折足を止めて何かを確かめていた。日が傾き始めた頃、ついに目的地に到着した。そこは崩れかけた石造りの建物で、苔むした壁には奇妙な文字が刻まれていた。
テルヘルは地図を広げ、興奮気味に説明を始めた。「ここに書かれているのは、古代の王が眠る場所だと伝えられている。その近くには、強力な魔力が秘められた宝物が隠されているという伝説だ。」ラーンは目を輝かせ、イシェは眉間に皺を寄せた。
日が暮れ始めると、森に不気味な影が伸び始めた。イシェは不安げに周囲を見回し、「ここは迷子になりやすい場所だと聞いたことがある。気をつけないと」と呟いた。
テルヘルは無視して遺跡内部へ足を踏み入れた。ラーンも後を追い、イシェだけが少し躊躇した。だが、二人がすでに奥深くまで進んでしまったため、仕方なく彼らに続くことにした。
遺跡内部は暗く湿っていた。石畳の床には苔が生え、壁からは水が滴り落ちていた。彼らは迷路のような通路を進んでいくうちに、どこにいるのかわからなくなってしまった。イシェは地図を広げ確認しようとしたが、奇妙なことに地図の線が消えていた。
「おかしい…地図が…」イシェは声を震わせた。ラーンは焦燥感に駆られ、周囲を荒らしまわった。テルヘルは冷静さを保ちながらも、わずかな不安を隠せない様子だった。
三人は迷子になってしまったのだ。古代の王の墓、強力な魔物の宝物…全てが忘れ去られるかのように、彼らは闇の中に消えていった。