「おいラーン、あの石碑、どうだ？何か刻まれてるぞ」。イシェが指差す方向には、崩れかけた遺跡の壁にひび割れた石碑が立っていた。ラーンは石碑に近づき、ぼんやりと刻まれた文字を眺めた。「よく分からんけど、古い呪文みたいだな」。「何かの警告か？」イシェは眉間に皺を寄せた。「この遺跡には何か危険なものが眠っている気がする」。
テルヘルはそう呟くと、鋭い視線で周囲を観察した。彼女はヴォルダンに奪われたものを取り戻すため、あらゆる手段を尽くす覚悟だった。遺跡の探査は単なる金儲けのためではない。それは復讐を果たすための必要悪だった。
「よし、そろそろ引き上げよう」。ラーンの言葉にイシェが頷くと、二人は遺跡の外へと出た。日が暮れ始め、辺りは薄暗くなり始めていた。「今日の収穫は？」ラーンが疲れ切った様子で尋ねると、テルヘルは小さな袋を差し出した。「わずかな遺物だが、これでしばらくは食料を買うことができるだろう」。イシェは袋の中身を覗き込みながら、何かを察知したように顔を曇らせた。
ビレーの街へと続く道は、かつて迫害された人々の亡霊が彷徨うような薄暗い雰囲気に包まれていた。ラーンは軽やかに歩を進めたが、イシェは何かを思い悩んでいる様子だった。「あの石碑、よく見たら...」。イシェが呟くと、テルヘルは鋭い視線を向けた。「何だ？」「あの記号...私はかつて見たことがある」。イシェは震える手で小さなメモ帳を取り出し、石碑に刻まれた記号を写し始めた。
「これは...」。イシェの声が震える。「この記号は、ヴォルダンが迫害した人々の象徴だ」。テルヘルは息をのんだ。遺跡の奥深くには、ヴォルダンが隠そうとした真実が眠っているのかもしれない。そして、それはテルヘルの復讐と深く関わっている可能性もある。
三人は互いに言葉を交わすことなく、ビレーへと続く道を歩き続けた。彼らの背後には、影が長く伸びていた。