「よし、今日はあの廃墟の奥へ入ってみるか？」
ラーンが目を輝かせ、イシェを振り返った。彼女はいつものように眉間に皺を寄せながらも、小さく頷いた。テルヘルは地図を広げながら、「内部構造は複雑だが、記録によると中央部に大きな部屋があるようだ。そこに何か手がかりがあるかもしれない」と冷静に分析する。
ビレーから少し離れた場所にある廃墟は、かつての王国の一部のようだった。崩れかけた石造りの壁には、かつての栄華を偲ばせる彫刻が残る。遺跡探索というより、巨大な迷宮のような場所だ。
3人は日用品と食料を携えた荷物を背負い、廃墟へと向かった。ラーンはいつも通り大げさな動きで先頭を歩き、イシェは後ろから彼を牽制するように見張る。テルヘルは常に周囲を警戒しながら、地図を確認し進路を選んでいた。
廃墟内部は暗く湿っており、埃っぽい空気が鼻腔を刺激する。崩れた天井から雨水がポタポタと滴り、足元には苔むした石畳が広がっている。時折、不気味な音が響き渡るため、イシェは常に緊張を強いられていた。
「ここだと、何かあったらすぐに逃げられるように…」
イシェは、狭い通路の端に荷物を置く場所を探しながら呟いた。ラーンは「大丈夫だ、俺が守る！」と豪快に笑いかけるが、イシェは彼の無茶な行動にいつも頭を抱えていた。
日が暮れ始めると、廃墟の奥深くに大きな部屋が見えてきた。テルヘルが地図で示していた場所だ。部屋の中央には、巨大な石棺が置かれており、その周りを奇妙なシンボルが刻まれた石柱で囲まれている。
「ここか…」
テルヘルは石棺に近づき、慎重に表面を触れる。すると石棺の蓋がゆっくりと開き始めた。中から光り輝く球体が姿を現し、部屋全体を不気味な光で満たした。
その時、廃墟の外では、何者かの足音が響き渡り始めた。ラーンは一瞬にして剣を抜いた。「敵か！」
イシェも緊張感を持って周囲を見回し、テルヘルは冷静に状況を判断する。彼らの前に立ちはだかるものは、ヴォルダン軍の兵士たちだった。
「まさか…」
イシェが驚愕する声に紛れて、ラーンは叫んだ。
「逃げろ！輸送ルートを確保しなきゃ！」
廃墟からの脱出を急ぐ３人。彼らの背後には、ヴォルダン軍の追撃が迫っていた。