ラーンが岩壁をよじ登るようにして遺跡の奥へと進んでいく。イシェは後ろから彼の動きに合わせて慎重に足を動かした。狭い通路で、ラーンの背中は大きくイシェの視界を遮り、まるで大きな影のように見えた。
「ちょっと待て、ラーン。ここは足場が不安定だぞ」
イシェの声が響いたが、ラーンは振り返ることもなく、先へ進み続けた。
「ほら、また何か見つけたみたいじゃないか？」
テルヘルが言った。彼女は後方からゆっくりと二人に近づき、懐中電灯の光を壁に向けて当てた。壁には幾何学模様が刻まれており、薄暗い光の下で不気味な影を落とす。
「これは…！」
イシェは息を呑んだ。この模様は、以前テルヘルが示した古い文献に載っていたものだった。その文献によると、この模様は古代の文明が遺した強力な魔法の装置の一部であるらしい。
「よし、これで次の手がかりが見つかったぞ」
ラーンの顔には興奮の色があふれていた。しかし、イシェはどこか落ち着かない気持ちになった。この遺跡は、今までとは違う何かを感じさせた。壁に刻まれた模様から発せられる不気味な空気が、まるで彼らの輪郭を捉えようとするかのように感じられた。
テルヘルが慎重に模様をなぞりながら言った。
「この装置は、強力なエネルギー源と繋がっている可能性がある。もしうまく起動できれば…」
彼女の言葉は途中で途絶えた。突然、壁から鋭い音が響き渡り、通路全体が振動した。ラーンがよろめき、イシェはバランスを崩しそうになった。
「何だこれは…！」
ラーンの声が不安げに響く。
その時、壁の模様が激しく輝き始めた。その光はまるで生きているかのように脈打つように変化し、周囲の空間を歪ませた。そして、壁から黒い影がゆっくりと現れ始めた。影は不定形で、輪郭が曖昧だが、不気味な存在感を放っていた。
イシェは恐怖で息をのんだ。この遺跡の奥底には、想像を絶する何かが眠っていることを確信した。