ビレーの夕暮れはいつもより早く訪れた。ラーンがいつものように酒場で大口を開けて笑い話に興じていると、イシェが顔をしかめて言った。「今日は何か違うな」。ラーンの豪快な笑い声も少し小さく聞こえる。イシェの言葉通り、街の空気は重く、不穏な静けさを感じさせた。
「あの遺跡のことか?」ラーンは酒をぐいっと飲み干した。「ああ、確かに…」
テルヘルが持ち込んだ情報によると、ビレーからほど近い遺跡で、何か奇妙な光が観測されたというのだ。噂では「輝く石」と呼ばれる古代の遺物が見つかったらしい。その石には、かつてヴォルダンに滅ぼされた王国に残る魔法の秘密が眠っていると言われている。
イシェは眉間にしわを寄せた。「あの遺跡は危険だ。ヴォルダンの監視も厳しいだろう」。だが、ラーンの顔には興奮の色が浮かんでいた。「輝く石か…もしかしたら大穴になるかもな!」テルヘルが約束した報酬も魅力的だったが、ラーンにとって最大のモチベーションは冒険と宝探しだった。
「よし、行こう!」ラーンは立ち上がり、イシェの手を引っ張った。「今回は絶対に成功させるぞ!」
テルヘルは静かに微笑んだ。「私はあなたたちを信じる」。彼女の瞳には、輝く石への執念だけでなく、ヴォルダンへの復讐心も宿っていた。
夜空に浮かぶ満月が、彼らの行く手を照らした。遺跡の入り口に近づくにつれて、不気味な風が吹き荒れ始めた。ラーンは剣を握りしめ、イシェは慎重に周囲を観察した。テルヘルは背後から二つの影を見つめながら、口元をわずかに曲げた。
「準備はいいか?」ラーンの声が響く。イシェとテルヘルが頷くと、三人は遺跡へと足を踏み入れた。