「よし、今回はあの崩れかけた塔だ。噂によると、そこにはヴォルダンの軍が捨てた武器庫があるらしい」
ラーンは興奮気味に地図を広げ、太い指で塔の場所を示した。イシェは眉間に皺を寄せながら地図を覗き込んだ。
「またそんな噂話? 過去の遺跡探索でも何も見つからなかったじゃないか。今回は慎重に調査すべきだ」
「大丈夫、大丈夫! 今回は違うって気がするんだ。ほら、テルヘルさんも賛成してるだろ?」
ラーンはテルヘルの方を向いたが、彼女は冷ややかな目で地図を眺めていた。
「私は結果を求める。噂話に時間を浪費する余裕はない」
彼女の言葉は氷のように鋭く、ラーンの高揚した気分を一気に冷ましてしまった。イシェはテルヘルの態度に少し同情しながら、ラーンに告げた。
「確かに、今回は慎重に進めるべきだ。武器庫と言えども、ヴォルダンが捨てたものなら危険な罠が仕掛けられている可能性もある」
ラーンの顔色が曇った瞬間、テルヘルは薄く微笑んだ。
「心配するな。私は危険を回避する術を知っている。それに、君たちには私が用意した特別な道具があるだろう?」
彼女は小さな革袋を取り出し、中から幾つかの奇妙な金属製の器具を取り出した。ラーンの表情が再び明るくなるのを見た時、イシェは複雑な気持ちになった。テルヘルは彼らを巧みに操りながら目的を果たそうとしている。その冷酷さには軽蔑さえ感じられた。だが、彼女が抱える復讐の炎は本物であり、それを達成するためには手段を選ばない覚悟があるのも事実だった。イシェは深くため息をついた。この遺跡探索は、彼らにとって単なる冒険ではない。テルヘルの影に隠された真実、そして自分たちの運命へと続く道へと足を踏み入れる瞬間だった。