ビレーの酒場「荒くれ者」の喧騒が、ラーンの耳に心地よく響いていた。イシェがいつもどおり眉間に皺を寄せて、帳簿に没頭している横で、ラーンは粗末な酒をぐいっと傾けた。「なぁ、イシェ、今日はいい感じに稼げたよな!」
イシェはため息をつきながら帳簿を閉じ、「まだ足りないよ。テルヘルに約束した金額には程遠い」と冷静に言った。ラーンの肩を叩き、さらに付け加えた。「それに、今日の遺跡は危険だったぞ。あの仕掛け、運が良ければよかっただけだ」
ラーンの笑顔は一瞬曇り、しかしすぐにいつもの明るい表情に戻った。「ああ、でもあの宝箱!あれで見つけた財宝は、いつか大穴になる予感しかしない!」
イシェは呆れたように言った。「また大穴か。いつになったら現実を受け入れるんだい?」
その時、店のドアが開き、テルヘルが颯爽と入ってきた。「二人とも、次の依頼だ」彼女はそう言いながらテーブルに地図を広げた。「今回はヴォルダン国境近くの遺跡だ。危険だが、報酬はいいぞ」
ラーンは目を輝かせた。「やった!ついに大穴に近づけるか?」
イシェはテルヘルの顔色を伺いながら言った。「ヴォルダン国境って…何かあるのか?」
テルヘルは少しだけ唇の端を上げ、「詳しいことは後で。ただ、この遺跡には我々が探しているものがある」とだけ答えた。その瞳はどこか遠くを見つめているようだった。
三人は地図を眺めながら作戦会議を始めた。ラーンはいつものように無茶な提案を次々と繰り出すが、イシェが冷静に反論し、テルヘルは二人を統率するように指示を出す。
遺跡へ向かう途中、ラーンの足取りが止まった。「おい、イシェ、お前何か感じるか?」
イシェは周囲を見回した。「特に…ないと思うけど」
「いや、なんか変だ。空気が重たいぞ…」
その時、突然地面が揺れ始めた。激しい光が空を裂き、三人は目を覆った。そして、視界がクリアになると、目の前には見慣れない光景が広がっていた。そこは、荒涼とした岩場だった。
「ここは…どこだ?」イシェは驚きの声を上げた。
テルヘルは地図を見つめ、「転送されたようだ…」と呟いた。彼女の表情は薄暗く、何かを察知したようだった。