「よし、ここだな」
ラーンの声が、薄暗い遺跡の奥深くから響いてきた。イシェは懐中電灯を手に、慎重に足場を確認しながら進んだ。ラーンはいつも通り、先陣を切って駆け込んでいた。彼には、いつの間にか周囲の危険を察知する感覚が備わっていたようだった。
「また、大穴か?」
イシェはため息をつきながら、石畳に刻まれた古びた文字を指さした。ラーンは目を輝かせ、興奮気味に頷いた。
「今回は絶対違う!俺の直感だ」
しかし、イシェの目は、ラーンの背後にある崩れかけた壁に注がれていた。そこには、かすかに光る金属片が埋まっているのが見えた。それは、遺跡に眠る危険な存在を示すものだった。
「ラーン、待て!」
イシェの声は届かなかった。ラーンは既に、その光り輝く金属片へと手を伸ばしていた。その時、壁が崩れ落ち、暗闇から巨大な影が彼を襲った。
イシェは咄嗟にラーンの前に飛び込み、彼を庇った。激しい衝撃で息が詰まりそうになる中、彼女は必死に剣を構えた。影は、巨大な獣の姿をしていて、鋭い牙と爪を持つ恐ろしい姿だった。
「逃げろ、イシェ!」
ラーンが叫んだ。だが、イシェは動けなかった。彼女の視界には、ラーンの顔だけが大きく映っていた。彼の瞳には、今まで見たことのない強い意志が宿っていた。
その時、突然、獣の背後から一陣の風が吹き荒れた。影が揺らめく中、黒い装束の女性が現れた。テルヘルだ。彼女は冷静に剣を抜き、獣の目を狙った。
「お前たちは、この遺跡の真の目的を知らない」
テルヘルの声は冷酷だった。しかし、その言葉の中に、どこか切実な思いが込められていたようだった。イシェは、彼女の言葉を聞きながら、ラーンの転身を感じた。彼はもう、単なる大穴を求める探検家ではない。何か大きなものを背負っているように見えた。
獣は咆哮し、テルヘルに襲いかかった。激しい戦いが始まった。イシェは息を呑み、二つの影を見つめた。ラーンとテルヘルは、それぞれの信念を胸に、運命に立ち向かっていた。