「よし、ここだ!」
ラーンが興奮気味に叫び、大きな岩壁に向かって剣を振り下ろした。石塵が舞い上がり、岩盤には浅い溝が刻まれた。イシェは眉間に皺を寄せながら、ラーンの背後から「また無茶なことを…」と呟いた。
「ほら、イシェも見てみろよ!きっと何かあるはずだ」
ラーンは目を輝かせながら、岩壁の溝を指差した。イシェはため息をつきながら、ラーンの後ろに回り込み、石畳の上で転がっている小さな金属片を拾い上げた。それは複雑な模様が刻まれた銀の円盤だった。
「何だこれは…」
イシェが円盤を手に取ると、その表面から淡い光が放たれ、彼女の頭に鮮やかな映像が流れ込んできた。それは広大な遺跡の内部の様子で、そこには輝く宝の山と、それを取り巻く人々の姿が映し出されていた。
「これは…」イシェは言葉を失った。映像の中で見えた遺跡は、かつて彼女が研究していた古代文明の記録に記されていたものだった。そして、その記録には、「転写」と呼ばれる技術について触れられていた。それは、意識や知識を物体に移し替えることができるという、禁断の技術だった。
イシェは息を呑んだ。もしこの円盤が「転写」に関する情報を含むものであれば…
その時、ラーンが振り返り、イシェの手から円盤を奪い取った。「おお!これはすごいぞ!大穴だ!」
ラーンの言葉に、イシェは冷や汗を流した。ラーンには「転写」の真の意味など理解できないだろう。彼はただ、その円盤に描かれた遺跡を宝の山と勘違いしているだけだ。
だが、この情報はテルヘルには伝えなければいけない。彼女はヴォルダンとの戦いで、この「転写」技術が鍵になるかもしれないと確信していたからだ。イシェは深く息を吸い込み、ラーンに嘘をつく決意をした。
「ラーン、ちょっと待って!この円盤、実は…」
イシェは言葉を濁し、ラーンの目をじっと見つめた。「これは危険なものかもしれない。僕たちは持ち帰れない」
ラーンの表情は曇ったが、イシェの真剣な様子を見て、やがて頷いた。イシェは胸を撫で下ろした。彼女はラーンに嘘をついたことで罪悪感を覚えたが、この情報がヴォルダンに渡るのを阻止する必要があったのだ。
「よし、じゃあ一旦引き返そう」
ラーンが言った時、彼の背後から冷酷な声が響いた。
「待った」
振り返ると、そこにはテルヘルが立っていた。彼女の顔は氷のように冷たかった。
「イシェ、あの円盤を見せてみろ」