「よし、今回はあの崩れた塔だ! 伝説じゃ、塔の最上階に王家の墓があるってな!」 ラーンの言葉にイシェは眉をひそめた。「また噂話に踊らされるな。あの塔は危険だと聞いたぞ。近づくだけで呪いにかかった者もいると」
「そんなの迷信だ! イシェ、お前はいつも臆病だな。俺たちにはテルヘルさんがいるじゃないか!」 ラーンは自信満々に笑った。テルヘルは彼らをじっと見つめていた。「今回は慎重に進みましょう。塔の中は複雑な構造になっているようですし、何らかの罠が仕掛けられている可能性もあります」
イシェは少し安心した。テルヘルが言うなら、それは確実だ。彼女はヴォルダンとの戦いを経験し、常に冷静さを保つことを学んできた。だが、その冷静さの裏には深い憎悪が渦巻いていることも知っている。かつてヴォルダン軍に襲撃された村で、家族を奪われたのだ。
遺跡の入り口に立つと、ひっそりと鳥の鳴き声が聞こえた。ラーンは興奮気味に剣を抜いて塔へと踏み込んだ。イシェはテルヘルの後ろを歩きながら周囲を警戒した。崩れかけた石畳の上を進み、薄暗い通路を抜けていくうちに、壁に奇妙な絵画が描かれていることに気づいた。
「これは…軍の紋章だ」 イシェは声を絞り出した。「ヴォルダン軍のもの…」 テルヘルは顔色を変えながらも冷静さを保った。「ここには何か秘密があるはずだ。注意深く進もう」
塔の中ほどまで進むと、大きな部屋に出た。そこには巨大な棺が置かれており、その周りは骨で埋め尽くされている。ラーンは興奮気味に棺に手を伸ばそうとしたが、イシェが止めようとした。その時、床から冷たい風が吹き上げ、部屋全体を包んだ。
「これは…!」 イシェの言葉も途絶える。壁から無数の影が飛び出して彼らを取り囲んだ。それはかつてヴォルダン軍の一員だった亡霊たちだ。彼らは軍の紋章を胸に刻み、今なお主人への忠誠心を持っている。