ラーンの粗雑な剣振りが埃を巻き上げ、イシェの鼻先に粉塵が舞った。「またかよ…」イシェはため息をつきながら鼻を揉んだ。遺跡の入り口付近で遭遇したトラップが、ラーンの力任せの攻撃によって崩れ落ちたのだ。
「ほら、見ろよ！いい感じに崩れただろ！」ラーンは得意げに笑う。「これで奥へ進めるぞ！」
イシェはため息をつきながら、崩れた石の隙間を慎重に確認した。ラーンの豪快な攻撃は確かに効果的だが、そのせいで遺跡の構造が把握しにくくなってしまうのだ。
「ちょっと待てよ、ラーン」テルヘルが静かに言った。「あの奥にある壁画に何か刻まれてるぞ」
イシェも視線を壁画に向けた。薄暗い光の中で、壁画には複雑な模様が描かれていた。
「これは…古代ヴォルダン文字だ」テルヘルは眉をひそめた。「この遺跡はヴォルダンのものだったのか…」
ラーンの顔色が変わった。「おい、ヴォルダンかよ。ここは避けた方がいいんじゃないのか？」
「そんなこと言ったら、大穴が見つからないぞ！」イシェはラーンの腕を掴んで引き止めた。「ここは慎重に進もう。テルヘルが言うように、この遺跡はヴォルダンと関係があるかもしれない。何か危険な罠が仕掛けられている可能性もある」
テルヘルの顔には不気味な笑みが浮かんでいた。「危険ならこそ面白いじゃないか。それに、ヴォルダンとの関連があれば、我々にとって大きな情報源になるだろう」
ラーンの視線がイシェからテルヘルへと移った。イシェはラーンの瞳に不安と迷いを映し出すのを感じた。
「よし、わかった…」ラーンは深く息を吸い、「だけど、何かあったらすぐに引き下がるぞ」
イシェはラーンの言葉を聞いて安堵した。しかし、彼の瞳には、テルヘルの言葉に揺さぶられた、小さな軋轢が宿っていた。