ラーンが巨大な石の扉を押し開ける音が、埃っぽい空気を切り裂いた。イシェは背筋を伸ばし、扉の向こうへ懐中電灯を照らした。「広いわね…」
「広くて暗いのは当たり前だろ!」ラーンは笑いながら言ったが、彼の声にも少しだけ緊張が混じっていた。この遺跡は、ビレー近郊では珍しく、未踏 territory である。そのため報酬も高かったが、危険であることも彼らに伝わっていた。テルヘルは静かに周囲を見回し、鋭い視線で壁に刻まれた古代文字を確かめていた。
「ここには何かがあるはずだ」彼女は低い声で言った。「この遺跡の規模から見て、単なる埋蔵品置き場ではない。何か重要なもの…そして、ヴォルダンが欲しがるもの…」
イシェはテルヘルの言葉を聞きながら、ラーンの表情をじっと見つめた。彼はいつも通り、無邪気に笑顔を浮かべている。だが、イシェは彼の瞳に、かすかな影を感じた。ラーンはいつも以上に興奮しており、それは単なる冒険心ではなく、何か別のもの、恐らくはテルヘルからの報酬と、遺跡に眠る財宝への執着からくるものだとイシェは思った。
「よし、俺たちが先に進むぞ!」
ラーンの言葉に、イシェは小さく頷いた。彼女はいつも通り、彼についていくのだ。だが、心の中では、どこかで不安が膨らんでいくのを感じることができなかったわけではない。この遺跡、そしてテルヘルが抱く復讐の念が、彼女たちの運命をどのように変えてしまうのか…
彼らは奥へと進んでいった。足音だけが響く暗い通路は、まるで彼らを飲み込みに来るかのように静かで重かった。イシェは、自分の心の中で小さく呟いた。「どうか、何も起こらないで…」
しかし、彼女の願いは届かなかった。通路の奥から、不気味な音が聞こえてきた。それは低く唸るような音で、まるで巨大な獣がうなり声を上げているようだった。ラーンは一瞬にして剣を抜き、イシェも背中に daggers を構えた。テルヘルは冷静に周囲を警戒し、何かを察知したかのように眉間に皺を寄せた。
「これは…何か大きなものだ…」彼女は呟いた。「そして、我々の前に立ちはだかるものになるだろう…」