「おい、イシェ！あの石像、動かないか？」ラーンが巨大な石像の腕を叩きつけた。埃が舞う中、イシェは眉間にしわを寄せた。「やめろって！そんなことしたら遺跡が崩れるぞ！それに、あれは明らかに触らないでほしい雰囲気だろ」
「でもさ、もしかしたら宝箱隠れてるんじゃないか？ほら、こんなところに石像なんてあるわけないだろ？」ラーンの好奇心は旺盛だった。イシェはため息をつきながら、石像の足元にある小さな隙間を指差した。「そっちの方が怪しいぞ。ラーン、お前いつも大物ばかり狙うから何も見落としてるんだ」
その時、背後から冷たい声が聞こえた。「二人とも、無駄な動きは控えろ。時間だ。そろそろ本題に入ろう」テルヘルがそう言うと、石像の隙間から小さな箱を取り出した。イシェは箱に刻まれた複雑な模様をじっと見つめた。「これは…？」
「ヴォルダン帝国で使われていた記号だ。どうやらこの遺跡にはヴォルダンの秘密が隠されているらしい」テルヘルの目は冷酷に光り、ラーンとイシェを見下ろした。「そして、その秘密は俺たちのものだ」
ラーンの顔色が変わった。「おい、待てよ。俺たち、ヴォルダン帝国の…」
「黙っていろ。」テルヘルがラーンの口を手で塞いだ。「お前たちは俺の道具だ。俺の目的には関係ないだろう？」
イシェはラーンに視線を向け、小さく頷いた。ラーンの無謀な行動を止めなければ、この遺跡で命を落とすかもしれない。イシェは自分の決意を胸に秘めながら、テルヘルの指示に従うことにした。
「よし、わかった」ラーンは渋々頷き、石像の隙間にある通路へと入っていった。イシェも後を追うようにして、暗い通路の中へ足を踏み入れた。テルヘルは満足げに笑みを浮かべながら、二人の後ろ姿を眺めた。「いいぞ、二人とも。お前たちを道具にした時が、お前たちの真価が問われるときだ」
彼らは狭い通路を進んでいくにつれ、壁にはヴォルダン帝国の紋章が刻まれていた。イシェは背筋が寒くなるような予感を覚えた。この遺跡がヴォルダン帝国と深く関わっていることは明らかだった。そして、テルヘルが隠している何か、恐ろしい秘密を感じ取ることができた。
「イシェ…」ラーンがイシェの肩に手を置くと、イシェは振り返った。「どうした？」
「いや…」ラーンは言葉を詰まらせ、ただ shook his head した。イシェはラーンの表情を見て、彼にも同じ不安を感じていると理解した。二人は互いに言葉にすることなく、深く息を吸い込んだ。彼らは今、ヴォルダン帝国の影に立ち向かうことになり、その行く末は誰にも分からない。