ラーンの足音が石畳の上で乾いた音を立て、イシェの軽い足音と重なり合う。ビレーの朝露が冷たさを運んでくる。テルヘルは背後から二人が歩いていることを確認し、視線を遺跡へと向けた。巨大な石造りの門は、苔むした壁に覆われ、朽ち果てた様子で威厳を失っていた。
「ここだな」
テルヘルの声が、石畳に響き渡った。ラーンは軽くうなずき、イシェは地図を広げながら、扉の隙間から差し込む薄暗い光を確かめた。冷たい空気が顔にぶつかり、石造りの階段の上り詰めていくにつれ、湿った土の匂いが鼻腔を刺激する。
「ここ、なんか不気味だな」
イシェが呟いた。ラーンの視界は既に遺跡内部に切り替えられていた。薄暗い空間には、わずかに光が差し込み、埃が舞う様子がぼんやりと見えた。彼の感覚は研ぎ澄まされ、石の表面から伝わる微かな振動、そして湿った空気が運ぶ土の匂いまで全てを捉えていた。
「大丈夫だ。俺たちが先に進む」
ラーンが剣を構え、イシェに視線を合わせた。彼女は小さく頷き、彼の後ろを歩く。テルヘルは二人をじっと見つめながら、ゆっくりと階段を上っていった。石畳の冷たい感触、足音の反響、そして背後から聞こえるテルヘルの呼吸音まで、全てがラーンの五感を刺激した。
階段の上段にたどり着くと、広大な地下空間が広がっていた。天井からは鍾乳石が垂れ下がり、壁には謎の模様が刻まれていた。空気は重く、静寂だけが支配していた。ラーンの心臓は高鳴り、興奮と不安が入り混じった感覚を味わう。
「ここだ」
テルヘルが中央にある祭壇に指差した。その上には、金色の光を放つ球体が置かれていた。イシェの視線が鋭く球体に向けられ、ラーンは剣を構えながら、周囲を見回した。静寂が支配する空間の中で、かすかな音だけが聞こえてきた。それは、彼らの心臓の音だったのか、それとも遺跡の中に潜む何か別のものなのか?
ラーンの五感は全て研ぎ澄まされていた。彼の体全体が緊張し、あらゆる感覚が鋭敏になった。彼は、この遺跡の中に眠る謎、そしてそこに潜む危険を肌で感じ取っていた。