ビレーの朝焼けが、ラーンの寝起きの悪い顔に反射した。イシェはすでに準備を終えていた。「今日はテルヘルさんの依頼だよ。あの遺跡らしいけど、危険度が高いって話だったわ」とイシェは淡々と告げる。ラーンは眠気をこすりながら、「おーっ、それなら楽しみだ!大穴発見の予感しかしないぜ!」と拳を握りしめた。
イシェはため息をつきながら、いつものように彼の持ち物を確認した。剣はきちんと研がれているか、ロープや工具は揃っているか。ラーンの準備はいつも雑で、イシェはいつも後始末をしているのだ。だが、彼にはラーンの楽観的な明るさが欠かせない。
テルヘルは、いつも通り凛とした表情で待っていた。「今日は念入りに調べてほしい。あの遺跡にはヴォルダンが欲しがるものがあるらしい」と彼女は言った。その目は冷たく、何かを秘めているようだった。
遺跡の入り口は、崩れ落ちた石畳と苔むした壁で覆われていた。ラーンの興奮とは対照的に、イシェは背筋が寒くなるような予感を感じた。テルヘルは先頭に立ち、遺跡内部へと進んでいった。
暗い通路を進んでいくにつれ、空気は重くなり、湿っぽくなった。ラーンはワクワクするような気持ちと同時に、どこか不安な気持ちを抱いていた。イシェは彼の様子を察し、「大丈夫だよ」と呟いた。だが、彼女の心にも影が落とすものがあった。
遺跡の奥深くでは、何者かが動き回る音が聞こえてきた。ラーンの剣が震える。テルヘルは冷静に状況を判断し、彼らを安全な場所に導こうとした。しかし、その瞬間、突然壁から怪物が現れた。
ラーンは反射的に剣を抜いて立ち向かった。イシェも慌てて弓矢を引き絞り、怪物に矢を放った。だが、怪物の力は強く、ラーンの攻撃をものともしなかった。イシェの矢もわずかに外れ、怪物が咆哮を上げた。
テルヘルは冷静さを失わず、魔法陣を展開した。その光は遺跡全体を照らし、怪物を一時的に怯ませた。ラーンとイシェはその隙に逃げようとしたが、怪物の攻撃を受け、ラーンは壁に叩きつけられた。
イシェはラーンの声を聞き、「ラーン!」と叫んだ。だが、彼の体は動かなかった。
イシェの瞳は真っ赤に染まった。その瞬間、彼女は冷静さを失い、狂ったように怪物に襲いかかった。ラーンを助けたいという強い気持ち、そして、彼を失ったらどうなってしまうのかという恐怖が彼女の心を支配した。
テルヘルはイシェの様子を見て、驚いた表情を見せた。彼女はイシェの潜在能力を感じ取ったのだ。だが、その力を制御できず暴走する姿には、どこか憂いを感じた。
イシェの攻撃は凄まじく、怪物を追い詰めた。しかし、その狂気はいつ爆発するか分からない。テルヘルはイシェを落ち着かせようと声をかけたが、彼女は耳を貸さなかった。
ラーンの意識は朦朧としていた。彼はイシェの姿を見て、彼女の狂気に恐怖を感じた。だが、同時に、彼女を守るためには自分が立ち上がる必要があると感じた。
ラーンは必死に起き上がり、イシェに近づいていった。彼の目は、イシェの狂気を鎮めるために燃えていた。