ラーンの重い足音が響く。石畳の路地裏は日陰深く、湿った石から冷たい空気が立ち上る。イシェは後ろからラーンに「少し待てよ」と声をかけたが、彼は振り返らずに先へ進んでいた。
「あの遺跡は危険だって言っただろう」とイシェはため息をつきながら続く。「足首を痛めても責任取れないわ」
ラーンの背中は頑固なまでに前進を続けている。テルヘルが提示した報酬額は魅力的だった。だが、イシェは彼女の言葉の裏に何かがあるような気がしていた。遺跡の場所も奇妙だ。地図には記されていなかったし、地元の人々もその存在を口にしなかった。
「どうせまた大穴が見つかるわけないだろう」とイシェは呟いた。ラーンはいつもそうだった。夢ばかり見て現実を見ようとしない。しかし、彼のその無邪気さにイシェは心を惹かれるのを感じていた。そして、時に彼の行動が彼女を予想外の幸運に導くこともあった。
ビレーを出た後から、ラーンの足取りが軽やかになっていったことにイシェは気づいていた。それはまるで、彼が何かを予感しているかのような、興奮した様子だった。
「お前は一体何を?」
イシェの言葉にラーンは振り返った。彼の顔には不気味なほど満面の笑みが広がっていた。「見つけたぞ、イシェ!今回はきっと大穴だ!」
ラーンの指さす先には、崩れかけた石造りの門があった。その入り口から、不気味な光が漏れていた。イシェは足首を痛めてしまった時のことを思い出しながら、ためらいながらもラーンの後を追いかけるように門へと歩みを進めた。