湿った土の匂いと石塵が鼻腔をくすぐる。ラーンが先頭を切って薄暗い通路を進み、イシェは彼の後ろを少し離れた位置で慎重に歩いた。
「本当にここであってるのか?」イシェが小さな声で尋ねた。「地図だと、遺跡の中心部には大広間があるはずだが…」
ラーンの背中は揺らぐことなく、足音だけが響く通路の先へと進んだ。「大丈夫だ、見つけたぞ!」
彼の言葉と共に視界が開けた。広間の入り口に差し掛かったのだ。しかし、広間は期待したような壮麗な空間ではなく、崩れかけた壁と埃まみれの床が広がる荒廃した姿だった。
「なんだこれは…」イシェが呟くと、ラーンは苦笑いを浮かべた。「遺跡の地図なんて、たいていウソっぱちだ。」
その時、足音が聞こえた。重く、ゆっくりとした音。広間の奥から近づいてくるようだった。
ラーンの表情が硬くなる。「誰だ?」と声を張り上げた。
しかし返ってきたのは、かすかな金属音だけだった。
イシェはラーンに視線を向け、「何かいる…?」と不安げに尋ねた。ラーンの目には、警戒の色が宿っていた。
足音が大きくなり、広間の奥からゆっくりと姿を現した。それは、巨大な鎧を纏った男だった。顔は覆われており、手には錆びた剣を握っている。
男はゆっくりと歩みを進め、その足音だけが広間を満たす。ラーンとイシェは互いに視線を交わし、緊張した空気を共有した。