「おい、イシェ、この石碑、なんか変じゃね?」
ラーンが指さす石碑は、苔むして文字が見えにくい上に、何とも不気味な雰囲気を漂わせていた。
「確かに…何か刻まれているみたいだけど…」
イシェは慎重に石碑に近づき、指で文字の跡をなぞった。すると、石碑から微かな光が立ち上り、二人は目を奪われた。
その時、背後から冷たい声が響いた。「何をしている?」
振り返ると、テルヘルが鋭い目で二人を見下ろしていた。
「テルヘルさん!まさか…」ラーンは驚いて言葉を失った。
テルヘルは石碑をじっと見つめ、「これは…ヴォルダン王朝の紋章だ」と呟いた。
「ヴォルダン…?!」イシェは息をのんだ。ヴォルダンは、エンノル連合に常に脅威を与え続ける大国であり、テルヘルの復讐の対象でもあった。
テルヘルは石碑を触れながら言った。「この遺跡には何かある。ヴォルダンが隠した秘密だ」
ラーンの表情が曇り始めた。「秘密って…もしかして危険な話じゃないよな?」
テルヘルは涼しい声で言った。「危険は承知の上だ。だが、これがヴォルダンへの復讐を果たす唯一の道かもしれない」
イシェは不安を感じながらも、テルヘルの決意に押され、頷いた。ラーンも渋々ながら同意し、三人は遺跡の奥へと足を踏み入れた。
遺跡の奥深くには、広大な地下空間が広がっていた。そこには、ヴォルダン王朝の栄華を物語る様々な遺物と、何とも不気味な装置が展示されていた。
「これは…一体何?」ラーンは目を丸くした。
イシェは装置の構造を分析しながら、「何かエネルギーを蓄積しているようだ…」と呟いた。
テルヘルは装置に近づき、手を伸ばした。「これでヴォルダンを打ち砕くことができる…」
その時、装置から激しい光が放たれ、三人は吹き飛ばされた。
意識を取り戻すと、ラーンは自分が安全な場所に避難させられていることに気づいた。イシェも無事だった。
「テルヘルさんは…?」
イシェが心配そうに言う前に、テルヘルがゆっくりと歩み寄ってきた。彼女は顔色が悪く、傷だらけだが、どこか安堵した表情をしていた。
「ヴォルダンへの復讐は…」テルヘルは言葉を濁し、「もう終わりだ」と言った。
ラーンは戸惑いながらも、テルヘルの言葉の意味を理解した。彼女は、ヴォルダンへの復讐を果たすために、自ら犠牲になったのだ。
イシェはテルヘルに近づき、「あなたは…なぜ?」と尋ねた。
テルヘルは苦笑いし、「赦免は、もう必要ない」と言った。そして、静かに目を閉じた。