ラーンの粗雑な斧の一撃が埃を巻き上げ、壁の一部を崩した。イシェは眉間にしわを寄せながら「また無駄な力の使い方ね。あの程度の石壁なら、少し工夫すれば…」と呟いた。ラーンは苦笑いで「おいおい、イシェ、そんな細かいこと気にすんなよ。ほら、何か見つかったぞ？」と床に散らばる破片を指差した。
その破片の一つに、複雑な模様が刻まれた金属のプレートがあった。イシェが慎重に拾い上げると、「これは…古代ヴォルダン語で書かれている」とつぶやいた。「もしかしたら、遺跡の謎を解く鍵になるかもしれないわ…」
「ヴォルダンか…」テルヘルは鋭い視線でプレートを見つめた。その目は憎しみと哀しみで満たされていた。「あの国がもたらした苦しみ…二度と繰り返されることはない」と彼女は呟いた。ラーンは彼女の表情を見て、何かを察したようだった。しかし、彼は口を開く前にイシェに声をかけられた。「ラーン、このプレートの模様…どこかで見たことがあるような…」
イシェは自分の記憶をたどっていくうちに、かつて見たある絵画を思い出した。それはヴォルダンの歴史書に載っていたもので、ある英雄が描かれていた。その英雄の胸には、今イシェが持つプレートと同じ模様が刻まれていた。イシェは震える手でプレートをテルヘルに見せた。「これは…もしかしたら、ヴォルダンを滅ぼした英雄の遺物かもしれません」
テルヘルの表情が一瞬だけ崩れた。彼女は英雄の名前を口にした。「アビス…」その名を呟くだけで、過去の苦しみと贖罪への願いが渦巻いた。ラーンはテルヘルの様子を見て、何か重大な秘密を抱えていることに気づき始めた。イシェもまた、この遺跡探索の目的が単なる財宝探しではないことを察した。
彼らは、英雄の遺物を通して、ヴォルダンの歴史に隠された真実と向き合っていくことになるだろう。そして、テルヘルは過去の罪を償うための道を見つけることができるのか…