ビレーの酒場にはいつもより活気がなかった。ラーンがいつものように大杯を傾けても、イシェの眉間にしわが寄っているのが気になった。「何かあったのか？」ラーンの問いかけに、イシェはため息をついた。「新しい遺跡の発掘許可が出たんだって。ヴォルダンからの出資らしい」。
ラーンは驚いた。「ヴォルダン？ なんでそんな場所に手を出す必要があるんだよ？」イシェは苦い顔で言った。「噂では、あの辺りには古代の兵器が残されているらしい。ヴォルダンがそれを手に入れるために、あらゆる手段を使うって話だよ」。
ラーンの顔色が曇った。「テルヘルはどうするんだ？」イシェは首を横に振った。「何も言わない。でも、あの目つきを見る限り、何か企んでいるのは間違いない」。
次の日、ビレーの広場にはヴォルダンからの使者が現れた。豪華な衣服に身を包んだその男は、高額の報酬を約束し、遺跡探索への協力を呼びかけた。ラーンとイシェは互いの顔を見合わせた。「これは罠だ」イシェは呟いた。「ヴォルダンの手先が、テルヘルを利用しようとしているんじゃないか」。
ラーンは拳を握りしめた。「俺たちには選択肢がないんだ。テルヘルのために、そしてビレーを守るために戦うしかない」。イシェはため息をつきながらうなずいた。「そうだな。でも、気をつけろよ。ヴォルダンは狡猾だ。彼らに利用されることのないように」。
テルヘルは使者の言葉に静かに耳を傾け、その後の動きを思案していた。ヴォルダンの真意は計り知れないが、この機会を利用すれば、自分の復讐に大きく近づけるかもしれない。彼女は深い溜息をつき、決意を固めた。「彼らをうまく操るためには、ある程度の報酬が必要になるだろう」。テルヘルはポケットから小袋を取り出し、中にきらびやかな宝石を数粒入れた。
「これで十分だ」と彼女は呟いた。使者への贈賄は、この危険なゲームで勝利するための必要悪だった。