「よし、今日はあの崩れかけた塔だ」ラーンが拳を握りしめると、イシェは眉間に皺を寄せた。「またあの塔?あそこは危険だって言っただろう。それに、最近見つかってもただの瓦礫ばかりじゃないか」ラーンの豪快な笑い声とイシェのため息がビレーの朝の静けさに溶けていく。
「大丈夫だ、イシェ。今回は違うって感じがするんだ。ほら、テルヘルも大金出すって言ってるだろ?」ラーンは目を輝かせながら言った。「あの遺跡はヴォルダン軍が調査したらしいぞ。何か特別な物があるって噂だしな」
テルヘルは涼しい表情で、二つの小さな宝石をイシェの手に滑らせた。「情報提供と引き換えだ。もちろん、遺跡内で発見された遺物については全て私達のものになるだろう」イシェは宝石を握りしめながら、複雑な表情を見せる。
崩れかけた塔は、かつて栄華を誇った都市の残骸の一部だった。内部は暗く湿気があり、足元には瓦礫が散らばっている。ラーンの豪快な剣 swing とイシェの素早い動きで、彼らは塔の奥深くへと進んでいく。
「ここだ!」ラーンが興奮した声で叫んだ。壁に埋め込まれた石碑には、複雑な文様が刻まれていた。「これは…古代言語だ!もしかしたら…」彼の目は輝き、イシェも緊張感に包まれた。
その時、後ろから重い足音が聞こえた。振り返ると、黒曜石の鎧を身につけたヴォルダン兵士たちが、彼らを包囲していた。「何者だ!?この遺跡はヴォルダンのものだ!」
テルヘルは冷静に剣を抜いた。「私達はこの遺跡を調査している。邪魔するな」彼女は鋭い視線でヴォルダン兵士たちを睨みつけると、ラーンとイシェに頷いた。「準備はいいか?」
激しい戦闘が始まった。ラーンの剣技は荒々しく力強く、イシェの動きはしなやかで正確だった。テルヘルは冷静沈着に敵の動きを分析し、隙を突いて攻撃を加えていく。しかし、ヴォルダン兵士たちは数が多く、経験も豊富だ。
その時、イシェが崩れかけた壁に何かを見つけた。「ラーン!あの石碑の下にある!」彼女は叫びながら瓦礫をどかした。そこには小さな金庫があり、中には宝石やコインがぎっしり詰まっているのが見えた。
「やった!」ラーンの声は興奮で震えていた。だが、その瞬間、ヴォルダン兵士の一人がイシェに斬りかかってきた。イシェは避けることが出来ず、傷を負ってしまった。
テルヘルは怒りを抑えきれずに、ヴォルダン兵士たちに襲いかかった。「この女に手を出すな!」彼女の剣は凄まじいスピードで動き、敵を次々と倒していく。
イシェは痛みをこらえながら立ち上がり、ラーンと共に戦闘に参加した。彼らは力を合わせて戦い、ついにヴォルダン兵士たちを撃退した。
「イシェ、大丈夫か?」ラーンの声に、イシェは苦笑いした。「少し傷ついたけど…大丈夫よ」彼女は宝石を握りしめながら言った。「これで、あの宝を手に入れたんだ」
テルヘルは金庫に手を伸ばそうとしたその時、ラーンが彼女を制止した。「待て、テルヘル。あの宝は…」彼の視線はイシェの怪我に向けられた。「イシェのために使うべきだ」
テルヘルは一瞬言葉を失った。彼女は自分の目的のためなら手段を選ばない者だったが、ラーンの言葉に心を揺さぶられるものがあった。
「よし、わかった」彼女は小さく頷き、金庫を閉じた。「今日はこれで終わりだ」
彼らは遺跡から脱出し、ビレーへと戻った。イシェの怪我は治り、宝石は高く売却された。そのお金の一部は、イシェの治療費に充てられ、残りはラーンとイシェが分け合った。
テルヘルは、彼らを見送りながら、何かを考え込んでいた。彼女はヴォルダンへの復讐のために遺跡を探していたが、そこで出会った人々との友情と、自分自身の心の変化を感じたのだ。そして、彼女は自分だけの方法で、正義を追求していくことを決意した。