ラーンが巨大な石門をこじ開けると、埃っぽい空気が吹き込んできた。イシェは鼻をつまんで「また Rats' Nest か…」と呟きながら、懐中電灯で周囲を照らした。薄暗い通路の壁には、まるで獣の爪痕のような奇妙な刻印が多数刻まれていた。
「ここってどこだっけ？」ラーンが首をかしげる。「テルヘルに聞いた覚えがないんだけど…」
イシェは石畳の上の足跡を確認しながら言った。「遺跡データベースによると、ここは"失われた王宮"の一部らしい。ヴォルダン軍が侵攻した際に、多くの宝物と共に封印されたと伝えられている」
「宝物が封印されてれば、俺たちにもチャンスがあるってことか！」ラーンの目は輝き始めた。「よし、イシェ、テルヘル！今日は大穴を開けてやるぞ！」
だが、イシェはラーンの興奮を冷めた目で見ていた。彼女は以前から感じていた違和感。テルヘルがここへ誘ってきた理由が理解できなかったのだ。
「テルヘルは一体何を目的にここに来たんだろう…」イシェは心の中でつぶやいた。
奥へと進むにつれて、通路の壁には宝石が埋め込まれた豪華な装飾が目立つようになっていった。明らかに王宮の一部だ。そしてついに、彼らは広大な大広間に出た。中央には巨大な玉座が置かれ、その周囲には金銀財宝が山積みになっている。
ラーンの目は丸くなり、「やばい！これは本当に大穴だ！」と叫んだ。イシェも思わず息をのむ。だが、その時、テルヘルが突然剣を抜いてラーンを襲いかかった。「何をするんだ？」ラーンの驚愕の声に、テルヘルは冷徹な笑みを浮かべた。「これは俺たちのものじゃない。全てヴォルダンに渡すのだ」
イシェは驚きと怒りで言葉を失った。テルヘルは事前に遺跡の情報を買い占め、この場所を独り占めしようと企てていたのだ。そしてラーンを人質にして、財宝を全て奪おうとしたのである。
「待て！俺たちとの約束は何だ！」ラーンの抵抗もむなしく、テルヘルは彼を制圧し始めた。「約束？そんなものはもう関係ない」テルヘルは冷たく言った。「この遺跡の財宝はヴォルダンに渡せば、戦力となり、最終的に復讐を果たせる。それが私の目的だ」
イシェは冷静さを保とうとした。テルヘルは計画的かつ冷酷な人物だが、ラーンを人質にするという行動は、ある程度の自信の裏付けがあるはずだ。そして、その裏付けとなるものとは…。イシェの視線が、広間の隅にある巨大な石碑に向けられた。石碑には複雑な文字が刻まれており、まるで警告文のように見えた。
「テルヘル…」イシェの声に緊張感が帯びていた。「この遺跡、本当にヴォルダンに渡せるものなの？あの石碑を見ればわかるはずだ。この遺跡には、単なる財宝以上の価値があるものがある」