ビレーの夕暮れは早く、街の影が長くなるにつれて、空は茜色に染まっていく。ラーンはイシェの眉間に刻まれた皺を見て、思わず笑みがこぼれた。「また怒ってるのかい?今日は悪くない loot があったぞ」。イシェはため息をつきながら、小さな水晶の球を指先に転がした。「この程度の trinket で喜ぶなんて、いつまで子供様なことを言うんだ」。ラーンの豪快な笑い声と、イシェの静かな吐息が、ビレーの賑やかな市場の喧騒に紛れ込んでいた。
今日はテルヘルが珍しく穏やかだった。いつもは冷徹な表情を崩さず、目的のためなら手段を選ばないという彼女の態度に、ラーンは内心怯えることもあった。だが、今日の彼女はどこか落ち着きなく、時折遠くを見つめるようにしていた。「何かあったのかい?テルヘル」ラーンの言葉に、テルヘルは一瞬だけ視線を彼に向け、小さく頷いた。「少し疲れただけだ」。
遺跡から持ち帰った水晶球は、テルヘルが特に興味を示した。彼女はそれをじっと見つめながら、呟いた。「これは…貴種のものかもしれない」。イシェは眉をひそめた。「貴種?そんなものは昔の話だろう」。ラーンは「貴種」という言葉に少しだけ興奮を感じた。古い書物には、かつてこの世界を支配していたとされる神秘的な存在について書かれていた。
テルヘルは水晶球を手に握りしめ、遠くを見つめていた。「ヴォルダンには、貴種の遺物がいくつか残されているという噂がある」。彼女の瞳には、復讐心だけでなく、何か別の感情が宿っているように見えた。ラーンはイシェの視線を感じながら、テルヘルの言葉を繰り返した。「ヴォルダンに…貴種の遺物か…」
夕暮れのビレーは、静かに夜へと移り変わっていく。街灯が一つ一つ灯り始めるとき、ラーンの心には不安と期待が入り混じっていた。遺跡探索の目的はいつも「大穴」だったが、テルヘルの言葉によって、それは単なる財宝獲得の夢ではなく、もっと大きな何かへと変わりつつあった気がした。